ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

横を通る影 nc+

更新日:

Sponsord Link

その木は、横を通り過ぎた瞬間にだけ、首を吊った人影が見えるという。

正面から見ても、じっと凝視しても何もいない。ただ、何の気なしに横切ったとき、視界の端にだけ、ぶら下がる形が引っかかるのだそうだ。二度見すると、必ず消えている。

理由も由来も語られていない。ただ、そういう木があるという噂だけが残っていた。

午前中に出発した。
大学近くのぼろアパートから原付で一時間ほど南へ走る。晴れた春の平野は広く、畑と農道が碁盤の目のように続いている。その真ん中近く、鎮守の森の端から一本だけ、ひょろりと突き出した木があった。

遠目には、本当にただの木だった。
葉は少なく、背は周囲より高い。鳥居のある森の一部に見えなくもないが、妙に孤立している。

噂通りに横を通り過ぎてみる。
見えない。
Uターンして何度か往復する。意識しないようにして走るが、何も映らない。

諦めて原付を停め、水路の縁に腰を下ろした。
人は集中し続けられない。意識が逸れた瞬間に何かが見えるのではないかと思ったからだ。

だが、時間だけが過ぎた。
腹が減り、腰が痛くなる。
木は、ずっとそこに立っている。

やがて、農道の向こうからトラクターが来て、近くで止まった。
運転席のじいさんがこちらを見下ろして言った。

「さっきから、何をしゆう」

木を指して、首吊りの噂を見に来たと答えると、じいさんは一瞬目を見開き、それから何度か頷いた。

「ああ……そうか」

それだけ言って、去っていった。

しばらくして、またトラクターの音が戻ってきた。
じいさんは今度は小さなビニール袋を差し出した。中には缶コーヒーと、消費期限の切れたおにぎりが二つ入っていた。

「腹、減っちょろ」

礼を言う間もなく、じいさんは木のほうを見た。

「……長いこと、気づかれんかったそうや」

誰のことか、すぐに分かった。
じいさんは、それ以上詳しい話はしなかった。ただ、ぽつりとこう言った。

「おらんみたいな人やった」

それだけだった。
しばらく世間話をして、じいさんは去った。

午後になっても、木には何も見えなかった。
結局、収穫はないまま帰ることにした。

帰る前に、森の近くまで寄って、木を見上げた。
その影が地面に落ち、自分の影と重なった。
一瞬、人がぶら下がっているように見えた。

写真を一枚撮った。
それで終わりにした。

帰宅後、隣の部屋の友人に話すと、彼は首をひねった。

「意識すると見えないものを見に行くって、最初から無理じゃないか」

確かにそうだと思った。

その夜、スマホで撮った写真を確認した。
木の影は写っていた。
自分の影も写っていた。

ただ、二つは重なっていなかった。
影は、少しだけ、ずれていた。

自分の立っていた位置では、ああはならない。

もう一度見返そうとして、指が止まった。
写真の端、画面の外に切れた部分が、妙に気になった。

そこに何が写っているのか、確かめる気にはなれなかった。

[出典:怖い話&不思議な話の投稿掲示板/投稿者「かれき ◆UtLfeSKo」 2018/06/23]

📚 この怪談の続きは、Kindleで

伝聞怪談コンプリート合冊

サイト未公開の話を多数収録。Kindle Unlimitedなら追加料金なしで読み放題。

【合冊版】558ページ・100円のお得セットあり

伝聞怪談1 伝聞怪談2 既刊6冊

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2026

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.