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中編 r+ ほんのり怖い話

喪われた顔 r+2,906

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あの人の声が、今でも耳に残っている。

「俺を裏切った元カノはみんな不幸になってるんだ」

そう言って、彼は平然と笑った。
「前の前の彼女のお母さんは死んじゃったし、その次の子は親父が借金残して自殺して、今風俗だってさ、笑えるよな」

彼の口調には、どこか誇らしげな響きがあった。冗談めかしてはいたけれど、目が笑っていなかった。
一瞬、脅されてるのか?と勘ぐったが、私はその場をやり過ごすことにした。

ある夜、彼が急に真顔になって、ぽつりと言った。

「俺、人殺してんだよ」

そのときは、気まぐれな気質の延長に思えた。だけど、彼の目だけは冗談を言っているようには見えなかった。
話を聞けば、中学のときに無免許でバイクを運転して、後ろに乗っていた彼女を事故で死なせたのだという。
「凍った道でスリップしてさ。あいつ、頭打って即死だったよ」
そのあと、死のうとしたけど、何度も彼女が止めに来た……と。

「でも、もう大丈夫。私は死なないよ」
私はそう言って、彼の傷を慰めたつもりだった。なぜあんなドラマみたいな台詞を口にしたのか、今思えば自分でも気味が悪い。

交際は二年続いた。私の家族にも紹介した。
彼の家族には会ったことがなかったが、電話越しに声を聞いたことはある。彼の実家の住所も知っていた。
彼の親戚が、私の実家の近くに住んでいることがわかったときは、「運命みたいだね」と喜んだ。

でも、終わりは突然だった。

彼が関東の大学に合格し、遠距離が始まった直後、音信不通になった。

しばらく泣いたあと、私は彼を苦しめたいという気持ちに駆られた。
思いついたのは、最低な悪ふざけだった。

死亡通知のはがきを印刷して送りつける――
「彼と別れて絶望した私が自殺した」そんな安直な筋書きで。

印刷所で作ったはがきを持って、わざわざ実家近くまで行き、投函した。

数日後、母が言った。

「あんた、こんなのが届いたけど、何これ?」
差し出し人の私の名前が印刷された死亡通知のはがきが、実家に戻ってきていた。あて先不明で。

おかしい。確かに彼の住所を書いたはずだ。前にも手紙を送って、ちゃんと届いていた。

さらに混乱したのは、母の言葉だった。

「そういえばさ、あんたこの人と付き合ってたの?」

「え、会ったことあるでしょ? 二度も家に来たじゃん」

「誰のこと? うちは誰もそんな子、会ってないよ」

……え?

冗談かと思った。でも母は本気の顔をしていた。

その日から、何かが変わった。

彼と過ごした時間が、少しずつ輪郭を失っていく。
彼と写ったはずの写真の顔が、どこかぼやけて見える。
なのに、記憶はある。手をつないで歩いた道。川沿いのベンチ。焼けた春の匂い。

でも、家族には記憶がない。
送った手紙が届いていない。
電話口の声は、幻だったのか?

答えを求めて、ある夜、飲み屋で知人たちと飲んでいた。何の気なしに、彼の話をした。

「事故で元カノを死なせたことがあるって、言ってたんだよ」

隣にいた店員がぽつりと口を挟んだ。

「それ、本当にあった話なの?」

気になって、翌日図書館で調べた。
十二月某日、事故のことを彼は「命日」だと話していたから、そのあたりの新聞をめくっていった。

『区内中三男子生徒が無免許バイクでスリップ事故。男子生徒は死亡、後部座席の女子生徒は意識不明の重体』

……話が、逆だ。

死んだのは、運転していた少年の方だった。
後ろに乗っていた彼女は、今も意識が戻っていないという。名前も記載されていた。

運転していた少年の名前は、「誠司」――彼が名乗っていた名前と一致していた。
けれど、私は信じられなかった。
彼は、あの事故で死んでいた?

学生証の名前を見返した。確かに「誠司」の名前が印刷されている。でも、偽装はいくらでもできる。

彼が彼である証明は、どこにもなかった。

思い切って、彼の実家に電話をかけた。
女性の声が出た。私は小学校時代の同級生を名乗り、彼と連絡を取りたいと申し出た。

「ありがとうね。でも……誠司は、もういないの。七年前に亡くなったのよ」

電話口の声は、静かだった。何度もかけたことがある番号だった。たしかに、以前もこの声を聞いた覚えがある。

じゃあ、私は誰と話していたの?

彼の親戚が近くにいるのを思い出して、母にさりげなく聞いてもらった。

「たしかに、あの家の親戚の子に誠司って子がいたよ。でも……やっぱり、七年前に亡くなってるって」

私は携帯のアルバムを開いて、彼と映った写真を見た。
そこに写っている顔を、偶然出会った中学の同級生に見せてみた。

「ああ……見たことある……たぶん誠司? いや、でもなんか違う気がする……」

彼は首を傾げながら、写真から目を逸らした。

今でも、その写真が手元にある。
でも、その顔が誰だったのか、今となってはわからない。

あの二年間、私は一体、誰と付き合っていたのだろう。

たしかに彼は言っていた。

「俺、人殺してんだよ」って。
あれは、過去の話ではなかったのかもしれない。

……彼自身が、この世の誰かを名乗って、生き延びていたのかもしれない。

いや、それとも──
あのとき、本当に死んだのは「私」の方だったのだろうか。

[出典:357:本当にあった怖い名無し New! 2006/07/02(日)22:18:36ID:ahDwViLx0]

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