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短編 r+ ほんのり怖い話

何でも屋始末記 r+4583

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以前、都内の飲み屋で一緒に酒を飲んだ男がいる。

元・何でも屋、という触れ込みだったが、話しているうちに、それが単なる便利屋なんて生易しいものじゃないと気づいた。

曰く、依頼の九割はどうでもいい雑用だという。だが残り一割、そこに妙な匂いのする仕事が混じってくる。
例えば隣県まで、重さ四〜五〇キロはある謎のダンボール箱を複数運ばされたり、入った瞬間に鼻を刺すほど生臭い風呂場を掃除させられたり。
そんな依頼が定期的に舞い込む職場だ。普通なら逃げ出すところだが、彼には妙な好奇心があったのだろう。

ある日、ひときわ異質な依頼が来た。
「人を呪い殺してほしい」

さすがにこれは無理だと社長に相談したら、拍子抜けする答えが返ってきた。
「呪いなら刑法に触れない。問題ない」

そういう理屈で受けるか普通、と思ったが、社長は本気だった。しかもすぐに依頼者を呼ぶよう指示されたという。

やってきたのは中年の女だった。
腰まである髪は乾いた藁のようにぼさぼさで、終始うつむいたまま視線を上げない。声も、喉の奥で誰かが代わりに喋っているような響き方をしていたらしい。

依頼内容の異常さはもちろん、見た目も態度も常軌を逸していた。
それでも一応は契約書を交わす。内容はこうだ――
「呪いについて当社は専門外なので、信頼できる霊能者を代わりに探して紹介する」

ネットで検索すればいくらでも出てくる、と高を括っていたが、「信頼できる」という条件が思った以上に重かった。
何十というサイトを深夜に漁り、評判、文体、使用している写真、動画……すべてチェックして、やっとそれらしい人物を見つけた。
年配の男で、地方に住んでいるらしかった。口調に嫌味のない穏やかさがあり、何より話を聞いていると、こちらの頭が軽くなるような感覚があったという。

数日後、女はその霊能者に引き合わされ、契約は完了した。
それで終わった――はずだった。

三ヶ月ほど経った頃、ふと気になって霊能者に連絡を入れた。
電話口に出たのは彼の弟子だという若い声だった。

「その女性、亡くなりました」

思わず声が出なかった。
理由を尋ねると、弟子が言葉を選びながら教えてくれた。
師匠が遺した日記には、こう書かれていたという。

――あの依頼者、最初からおかしかった。何も語らないのに、念が強すぎる。
――対象が誰なのかすら話さない。だが依頼を受けた翌朝から、わたしの部屋の鏡が全部割れ始めた。
――結界を張り直しても、風の音が止まない。
――ふと気づいた。あの女、自分自身を呪っていた。気づかずに。
――何をどう間違ったのか、あるいは初めからそうだったのか。
――彼女が殺したかった相手は、彼女自身だった。

電話の後、彼はしばらく放心していたという。
それ以来、ネットで「霊能者」と検索することすらしていない。

そしてこう付け加えた。
「今にして思えば、あの女、最初から"紹介されること"を望んでたのかもしれない。自分で呪う覚悟がなかっただけで、必要だったのは"形式"だったんじゃないかって」

そう言って、グラスを一気に空けた。
氷の溶けた音が、妙に耳に残っていた。

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