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私は、いま起きていることを理解できないまま、記憶を辿りながらこれを書いている。

すべての始まりは、小学一年の夏だった。北海道に住む祖父母から、兄と私宛に手紙が届いたのだ。

「夏休みを利用して十日ほど遊びに来ないか。お兄ちゃんと私ちゃんだけで」

父は私が二歳のときに母と離婚しており、父方の祖父母と会うのはこれが初めてだった。母は少し迷った末、「一度くらいは」と私たち兄妹だけで札幌へ送り出した。

大パパと大ママは、とても優しかった。洋風の家は明るく、書斎にはマトリョーシカやビー玉、大きなエレクトーンが並び、紅茶にはハート型の砂糖が入っていた。すべてが珍しく、私はすぐにこの家が好きになった。

ただ一つだけ、どうしても目が離せないものがあった。玄関に掛けられた二つの面、おかめと般若だった。洋風の家には不釣り合いで、とくに般若の面は、見るたびに胸がざわついた。外してほしいと頼んだが、「この辺りのしきたりだから」と、笑って流された。

楽しい滞在の終わりが近づいた夜、奇妙なことが起きた。兄と大パパと一緒に風呂に入り、私が先に上がって大ママを呼びに行ったが、返事がない。濡れたまま書斎を覗くと、そこに見知らぬ女が立っていた。

背中まで伸びる長い髪。薄緑のカーディガンに、ふくらはぎ丈のスカート。ゆっくり振り返ったその顔には、玄関にあった般若の面がついていた。女は何も言わず、大股でこちらに近づいてきた。そこで、記憶が途切れた。

気がつくと布団の中で、大ママが「のぼせたのよ」と言った。翌日、何事もなかったように私たちは帰路についた。ただ、家を出るとき、玄関から般若の面だけが消えていた。

それから数年後、兄が中学生になった頃、あの家にあったエレクトーンが送られてきた。「ご縁がありますように」という手紙と一緒に。だが、しばらくして突然音が出なくなった。処分前に上段の鍵盤を開けると、鍵盤の隙間に長い髪が挟まっていた。引き抜いて捨てたその夜、兄は高熱を出した。

それを境に、兄は「見える」と言い始めた。夜中に長い髪の女が覆いかぶさってくる。金縛り。ラップ音。高校生になっても不運は続き、恋人を作ろうとすると必ず何かが壊れた。ラブレターに混じっていた長い髪のせいで、相手に激怒されたこともある。

ある夜、兄の前に再び現れたのは、髪を振り乱し、笑う般若面の女だったという。兄はそれを見て、静かにこう思ったらしい。「ああ、こいつがいる限り、恋人はできないんだ」。

私が十九歳のとき、渋谷で出会った男性と付き合った。彼は札幌出身で、小学生の頃、隣家のエレクトーンをよく弾かせてもらっていたという。その家の玄関には、おかめと般若の面があった。だが、エレクトーンがなくなった日、般若の面も消えたらしい。その話を聞いたとき、私は別れを決めた。

その後、私は妊娠できない体だと知った。

いま、私は都内で一人暮らしをしている。実家では、母の飼っている犬たちが玄関に向かってよく吠えるという。兄は完全に“見える人”になった。

実家の玄関には、あの般若の面がある。ただし、以前とは向きが違う。外に向いているはずなのに、気づくたび、ほんの少しだけ角度が変わっているらしい。

これを書いている今、リビングのソファの隙間から、見覚えのない長い髪が出てきた。拾い上げてゴミ箱に捨てながら、私は考えている。

あの般若面は、いま誰の方を向いているのだろうか。

(了)

[904 本当にあった怖い名無し 2013/10/30(水) 08:53:44.31 ID:4PrXcmLsi]

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