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民の花嫁が囁く集落 r+11,951

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石川県の深い山あいに、いまだ忌まわしき風習を残す集落があると聞く。

霧に霞む古屋が並び、凍てつく冬の夜ともなれば、軒先のつららが硬い音を立てて揺れるらしい。木戸をくぐった者の足元には苔が息づき、訪れた者の心臓までもが遅く高鳴るという。

かつて村を訪れた旅人は、皆と同じ苗字を名乗る村人たちと出会い、顔立ちや仕草の酷似に背筋が寒くなったそうだ。幼子も老人も、同じ笑みを浮かべる唇の端に、どこか凍える理性を感じさせる。戸口ですれ違うたび、目が合った瞬間に胸がつかまれたように震え、言葉も出ないまま立ち去ったという。

夜が深まると、古井戸のほうから笑い声とすすり泣きが同時に響き渡る。子供の声も、年老いた声も、旋律は一様で、合唱するかのように狂気じみた調べを奏でるらしい。いまだ誰一人として、その源を確かめようと近づいた者はいないという。

ではなぜ、血族の結婚がいまだ途絶えぬのか。元住人によれば、数百年昔、集落は凶作により壊滅的な飢饉に見舞われた。生き残りをかけた企てとして、嫁いだ女性を『民の花嫁』と定め、村中の男たちの子を孕ませる儀式が始まったという。たった一人の花嫁を巡り、男たちは順番を待つのではなく、夜毎同時にその影に忍び寄ったと伝わる。

そのおかげで奇妙な種が守られ、やがて知能と肉体が驚異的に発達し、病に倒れる者もほとんどいなくなった。唯一の代償は、人ならざる声に苛まれる絶え間ない夢――夢の底で誰かが何度も繰り返し呼びかけるという。

ある者が密かに忍び込んだ旧婚礼の間には、古びた婚礼衣裳が数え切れぬほど積み重なり、床一面に子供の小さな手形が黒く染み付いていた。襖の向こうからはひときわ低い呻き声が漏れ、音もなく開く襖の隙間から見えたのは、糸のように長い黒髪に覆われた無数の顔ぶれだったという。

最後にひと言だけ囁いたそうだ。――「花嫁は、いまだここを出ていない」と。胸に潜む呪縛は、何百年経とうとも解けることがないらしい。

関連話:村の九割が《いとこ結婚》血族結婚・調査報告書

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