ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

猫の視線 nc+

更新日:

Sponsord Link

隣の家には猫がいた。名前はキクという。

白と黒のまだらで、背中の毛が少しだけ逆立って見える、妙に年寄りくさい猫だった。
その猫は、隣家の婆ちゃんにだけ懐いていた。畑に行くときも、寄り合いに出るときも、買い物に出るときも、必ず少し遅れてついていく。首輪もつけていないのに、どこへ行くにも迷わず後を追う。

不思議なのは、婆ちゃん以外には徹底して無愛想だったことだ。
家族に対してもそうで、触ろうとすれば爪を立て、近づけば低く唸る。人の声よりも婆ちゃんの咳払いにだけ反応するような猫だった。

だから皆、あの猫は婆ちゃんのものだと思っていた。
正確には、婆ちゃんに選ばれたのだと。

ある日、その婆ちゃんが突然亡くなった。
朝、救急車が来て、昼前には人が集まり、夕方には線香の匂いが漂った。あまりに急で、猫のことを気にする余裕もなかった。

それからしばらく、キクを見なかった。
誰かが引き取ったのか、どこかへ行ったのか、話題にもならなかった。

数日後の夜、喉が渇いて自販機に行こうと外へ出た。
街灯の下で、足元に何か温いものが触れた。見下ろすと、キクだった。

驚いた。
これまで一度も、こちらに寄ってきたことなどない。
それどころか、目が合うだけで逃げていた猫だ。

キクは何も鳴かず、ただ擦り寄ってきた。
足元を回り、膝に額を押しつける。
婆ちゃんにしていたのと、同じ仕草だった。

弱っているのかと思った。
婆ちゃんがいなくなって、よりどころを失ったのだろうと。

しゃがんで頭を撫でると、逃げない。
喉を鳴らす音が、やけに近くで響いた。

自販機まで行くつもりだったが、キクは離れなかった。
歩けば歩くほど距離を詰め、何かを確かめるように、何度もこちらの顔を見上げる。

そのまま家の前までついてきてしまった。
ドアを開けると、迷いなく中へ入ろうとする。

一瞬、迷った。
だが、隣の家の猫だ。勝手に入れるわけにもいかない。
胸が痛んだが、外に出して戸を閉めた。

しばらく、玄関の外で鳴いていた。
低く、切れるような声だった。

翌朝、学校へ行くために玄関を開けると、キクが飛びついてきた。
足元に絡みつき、逃がすまいとする。

ちょうど隣の家の母ちゃんが庭にいて、こちらを見て笑った。
たまげたね、この無愛想が。
あんたにだけ、えらく懐いてるよ。

他の人間には、相変わらず近づかないらしい。
触ろうとすると逃げ、声をかけると背を向ける。
それでも、私が外に出ると、必ずどこからか現れる。

学校でこの話をした。
猫が急に懐いたんだ、と笑い話のつもりで。

すると、友達の一人が、冗談とも本気ともつかない声で言った。
おまえ、婆ちゃん背負ってるんじゃないの。

笑えなかった。
なぜか、その言葉だけが耳に残った。

それから意識してしまうようになった。
キクの視線だ。

キクは、私を見るとき、目線が少し高い。
座っている私ではなく、立っている誰かを見上げる角度で、こちらを見る。

膝に乗ることはない。
胸にも来ない。
いつも、肩口のあたりをじっと見て、鳴く。

夜、部屋で一人でいると、廊下のほうを向いて鳴くことがある。
まるで、そこに誰かが立っているかのように。

隣の家の縁側に座るキクは、前足を縁にかけ、こちらを見ている。
いや、正確には、こちらの少し後ろを。

振り返っても、何もない。
だが、キクは目を逸らさない。

今もだ。
キクは縁側で、可愛らしく前足を揃え、じっとこちらを見ている。
私が動くと、視線も一緒に動く。

まるで、私の後ろにいる誰かから、目を離さないように。

[出典:18 :本当にあった怖い名無し:2005/06/05(日) 15:49:37 ID:pqXE+h2v0]

📚 この怪談の続きは、Kindleで

伝聞怪談コンプリート合冊

サイト未公開の話を多数収録。Kindle Unlimitedなら追加料金なしで読み放題。

【合冊版】558ページ・100円のお得セットあり

伝聞怪談1 伝聞怪談2 既刊6冊

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2026

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.