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君だけが知っていた温もり r+1752

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これは、ある患者から聞いた話である。

小学4年生の頃、彼は体が弱く、病院と自宅を行き来する日々を過ごしていた。年の離れた友人などいない孤独な時間の中で、病院内の庭園で出会った一人の「お兄さん」との交流だけが、彼の日常に小さな光を差し込んでいたという。

その「お兄さん」は、庭園の片隅でよくタバコをふかしていた。小さな少年を見かけると、いつも冗談めかして「吸うか?」なんて聞いてくるような、ひょうひょうとした人だったらしい。彼はその気さくな態度が妙に嬉しくて、すぐに心を開き、病院内でも楽しそうにお兄さんの話をしていたそうだ。

だがある日、病院内からお兄さんの姿がふっと消えた。どこかへ行ってしまったのだろうか。少年の心にほんの少しの寂しさが広がるも、病院に出入りしている患者であればいずれ退院もするだろうし、あるいは転院したのかもしれない――そんなふうに自分を納得させるしかなかった。

それから一週間が経ち、少年もついに退院の準備を進めていた。久々に開放される外の空気に期待を膨らませ、ふとその庭園に足を向けた。記憶にある景色が広がり、彼はそこで少しの間、柵越しに外を眺めていたという。

そのとき、駐車場の方に、例のお兄さんの姿があった。間違いない、お兄さんがこちらに気づき、手を振ってくれている。少年は胸が弾むのを感じた。ああ、また会えた!さっそく駆け寄りたい気持ちが高まり、病院を一度抜けて回り道をするのは時間がかかると判断し、彼は何のためらいもなく柵を乗り越えようとした。

だが、その瞬間、背後から突然腕を掴まれ、強く引き戻された。振り返ると、慌てた様子の看護師がこちらを睨みつけ、「何してるの!死ぬ気?」と鋭い声を飛ばした。少年は驚きと混乱で言葉を失ったが、何とか「お兄さんが、駐車場にいるんだ!」と指を指し、説明しようと必死に訴えた。だが看護師は訝しげに眉をひそめ、じっと少年の指さす方向を見つめて言った。

「どこにもそんな人はいないわよ」

彼はその場に固まってしまった。たしかに手を振ってくれたと、心の中で何度も主張したが、看護師の顔には一切の疑いがなかった。

さらに不思議なのは、それから何年か経った今、彼があの「お兄さん」の顔をどうしても思い出せなくなってしまったことだった。笑っていた目元も、どんな服を着ていたかも、記憶の中からすっかりと抜け落ちてしまっている。少年時代の記憶が曖昧になっているだけかもしれないが、彼にはどこか引っかかるものがある。

あの日、お兄さんが立っていた駐車場に、果たして誰かが本当にいたのだろうか。それとも、彼が見ていたのは、彼だけにしか見えない何かだったのだろうか。

[出典:802 :本当にあった怖い名無し:2021/07/05(月) 10:35:00.41 ID:tYCt477Z0.net]

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