これは、ある投稿者が小学五年生のときに体験したという、いささか信じがたい不思議な話である。
その朝、いつものように近所の二人の友人と一緒に登校路を歩いていると、前方に見慣れた女の子二人の姿が見えた。そのうちの一人はクラスメイトで、もう一人は別のクラスの子だった。
だが、よく知っているはずのクラスメイトの姿に、なぜか言いようのない違和感を覚えた。よく見れば、彼女の全身が驚くほど異様な色をしていたのだ。
──全身、真っ紫。
頭の先から足の先まで、髪も服も靴も肌までもが紫色に染まり、まるでペンキを被ったかのようだった。彼はすぐに隣の友人に「見ろよ」と声をかけようとしたが、なぜか喉が凍りついたように声が出なかった。
不思議と話してはならない、そんな気がして、金縛りに遭ったかのような感覚が襲ってきたのである。何より奇妙だったのは、彼と一緒に歩いている二人の友人が、全く普通の様子で話し続け、誰一人としてその異様な光景に触れなかったことだ。
「自分にしか見えていないんだろうか……?」と恐ろしくなった。けれど、登校した後もその「紫色の女の子」はいつも通り教室におり、他のクラスメイトも何事もなく接している。担任の先生ですら、その異様な姿に全く触れることはないのだった。
その日の放課後、掃除の時間に彼はまたもや、同じグループで作業していた紫色の女の子の姿を目の当たりにした。
誰もいない校舎の裏庭で、彼女が背を向けて掃除しているのを見つめながら、なぜ紫なのか、思い切って問おうとした。しかしその言葉を口にした瞬間、女の子が振り向き、鬼のような形相で大きく口を開いて絶叫したのだった。
絶叫しながら教室に逃げ戻り、放課後に家路へ急いだものの、その日の夜、ふと眠る前にあの紫色の姿がまぶたに浮かび、不安が押し寄せてきた。「明日も彼女が紫だったら……」
だが、翌朝、登校途中で見かけた彼女は普通に戻っていた。嬉しさで涙が止まらず、安堵感に包まれながら、その後は二度と彼女の全身が紫色に染まることはなかったという。
今でも、ふと街中で白髪を紫に染めたお婆さんを見ると、あの朝の記憶がよみがえることがあるという。怪奇と日常の境界に、いまだ答えの出ない問いを残したままの、そんな体験談だった。
(了)