家屋の解体作業をしていると、時折、普通では考えられない造りの家に出くわすことがある。
行き止まりになっている階段や、袋小路のように突き当たりで終わる廊下。増改築を繰り返した結果だろうと考えれば、まだ納得はできる。
隠し部屋のような小さな空間が見つかることも珍しくない。金庫代わりだったのか、趣味の部屋だったのか、理由はいくらでも想像がつく。
だが、あの家だけは違った。
古びた平屋の日本家屋で、長く空き家になっていたらしい。廃屋というほど荒れてはいない。正直、壊すのが惜しいと感じる程度には、形を保っていた。それでも家主は、迷いなく完全解体を希望した。
作業が進み、油圧ショベルで壁を崩したときだった。六畳ほどの空間が姿を現した。
天井を除き、壁も床もすべて瀬戸物のタイル張り。最初は風呂場かと思ったが、すぐにおかしいと気づいた。浴槽がない。水道管も見当たらない。中央に排水口らしき金属の蓋があるだけだ。
そして決定的に異常だったのは、出入り口が一切ないことだった。
四方の壁は完全に閉じている。人が入るための開口部が、どこにもない。内部を見下ろしているうちに、ふと嫌な想像が浮かんだ。
この中は、外から覗いている構造じゃない。
瓦礫をどけ、慎重に足場を作って、俺はその部屋の中に降りた。理由は今でもはっきりしない。ただ、降りなければいけない気がした。
中は異様に静かだった。音が吸い込まれるようで、自分の呼吸だけが耳につく。タイルは古いが、ひび割れは少なく、妙に手入れが行き届いている。
排水口の蓋に、乾いた跡があった。水ではない。こびりついたような、黒ずんだ染みだった。
その瞬間、外でショベルを動かしていた同僚が叫んだ。
「おい、もう一人いるぞ」
何を言っているのか分からず、俺は見上げた。同僚は、俺を見ていなかった。タイル張りの壁の一点を指差している。
「さっき、そこに立ってた」
聞き返す間もなく、壁が崩された。次の瞬間、頭上から光が差し込み、部屋は一気に外と繋がった。
作業はそのまま続けられ、家は跡形もなく解体された。あの部屋も、排水口も、すべて瓦礫に埋もれた。
だが、更地になったあと、奇妙なことに気づいた。
雨が降るたび、あの場所だけ水が溜まる。いくら土を入れても、必ず円形に沈む。排水が悪いわけではない。測量しても、原因は分からなかった。
家主は、再建の話が出るたびに首を横に振った。
「ここには、もう何も建てない方がいい」
理由を尋ねても、それ以上は語らなかった。
今もその土地は更地のままだ。
あの日、同僚が見たという「もう一人」が、どこに立っていたのか。
考えないようにしているが、通りかかるたび、無意識に足元を避けて歩いてしまう。
[出典:964 :本当にあった怖い名無し :2007/03/29(木) 23:02:43 ID:+cbmUODl0]