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短編 r+ ほんのり怖い話

完成しつつある顔 rw+4,681-0102

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俺は来年、二十歳になる。

これまで平穏に生きてこられたのは、たまたまだと思っている。理由は単純だ。今も終わっていない出来事があるからだ。

これは、俺がまだ物心もはっきりしない頃、夏祭りで見つけた一軒の屋台と、そこで手に入れたものの話だ。

小学校に上がる前の夏、俺は両親と地元の夏祭りに行った。提灯が連なり、太鼓の音が遠くで鳴り、屋台の呼び声が重なっていた。焼きそばの匂い、綿あめの甘さ、金魚すくいの水の反射。子どもにとっては、世界が少しだけ広がる夜だった。

両親は俺に五百円玉を一枚渡し、「好きなものを買っておいで」と言った。俺はそれを握りしめ、人の流れから少し外れた細い道に足を向けた。

そこで、妙な屋台を見つけた。

賑やかな通りから外れた路地の奥、街灯の光も届かない場所に、その屋台はあった。周囲の屋台と違い、赤や黄色の布は使われておらず、色の抜けた布が垂れ下がっている。並べられている品も奇妙だった。表情の読めない人形、意味の分からない模様のキーホルダー、そして、人の顔を模したようなお面。

どれも、どこかおかしかった。

怖いはずなのに、目が離せなかった。理由は分からない。ただ、引き寄せられるように、その屋台の前に立っていた。

「坊主、何か欲しいのか」

低い声がして、俺は顔を上げた。屋台の奥に、男がいた。年齢は分からない。笑っているのに、目だけが笑っていなかった。

俺は無意識に、お面を指差していた。人の顔を歪ませたような、左右が微妙にずれているお面だ。

「これ、いくら?」

男は一瞬だけ俺の顔をじっと見たあと、口元を歪めた。

「五百円でええ」

ぴったりだった。俺は迷わず金を渡した。男はお面を差し出し、それと一緒に、十字架の形をした小さなペンダントを俺の手に乗せた。

「これは持っとけ」

男はそう言い、少しだけ声を低くした。

「手放すなよ」

意味は分からなかったが、なぜか逆らってはいけない気がした。俺は頷き、屋台を離れた。振り返った時、屋台はもう見えなかった。

お面とペンダントは、しばらく俺の部屋に置かれていた。特別扱いするでもなく、捨てるでもなく、ただそこにあった。

異変に気づいたのは、小学校高学年の頃だ。友達が遊びに来て、部屋を見回していた時、ふと棚に置いたお面を見て言った。

「これさ、なんかお前に似てね?」

その場は笑って流したが、その夜、一人で見たお面の顔が、以前よりも見慣れている気がして落ち着かなかった。俺はお面を箱に入れ、押入れの奥にしまった。

それからしばらく、意識しないようにしていた。

中学に上がった頃、父方の伯母が家を訪ねてきた。伯母は銀座で占いをしている人で、親戚の間では少し変わった人という扱いだった。

伯母は挨拶もそこそこに、家の中を見回し、真っ直ぐ俺の部屋に入った。そして、何も言わずに押入れを開け、箱を取り出した。

箱の蓋を開けた瞬間、伯母の顔色が変わった。

「……これ、どこで」

俺が答える前に、伯母はペンダントを手に取り、次にお面を見た。その手が、わずかに震えていた。

伯母は何も説明しなかった。ただ、「触るな」と言い、箱ごと抱えて帰った。

数日後、伯母は亡くなった。理由は知らされなかった。遺品の整理をした親戚から、ペンダントが割れていたことだけを聞いた。

しばらくして、箱だけが俺の家に戻ってきた。中身は、お面だけだった。

それ以来、お面は押入れの奥にある。捨てようとしたことは何度もあるが、箱を持ち上げるたび、体が固まる。なぜか、捨ててはいけない気がする。

時々、確認する。すると、毎回、表情が違っているように見える。怒っているようにも、泣いているようにも、笑っているようにも見える。

最近では、はっきりと分かる。あれは、俺の顔だ。

鏡を見る前に、お面を見てしまうことがある。その時、どちらが本物か分からなくなる。

ペンダントがなくなってから、家の中の空気は少しずつ変わった。大きな不幸はない。ただ、小さな違和感が積み重なっている。母が転び、妹が知らない誰かに泣かされ、父が理由もなく苛立つ。

そして、夜中に目を覚ますと、押入れの方から、微かな音がすることがある。布が擦れるような音。呼吸のような音。

俺は来年、二十歳になる。

なぜか、その日が近づくほど、お面の表情が落ち着いていく気がする。完成に近づいているように。

もし、その日を越えて、俺がまだ俺でいられたら、この話の続きを書く。

それが、可能であれば、だが。

(了)

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