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右手の記憶 rw+1,764

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これは、ある友人から聞いた話だ。

彼は高校生の頃から、奇妙な夢を見ることが多かったという。ただの空想ではない。目が覚めたあとも体に残る感触や息苦しさが、生々しく現実に貼り付いて離れない、そんな夢ばかりだった。

中でも忘れられないのが、三日続けて見た夢だ。

一日目と二日目、内容は似ていた。
夢の中で、彼は何者かに命を狙われる。顔も理由もわからない。ただ殺意だけがはっきりしている存在に追い詰められ、最後は必死に抵抗し、相手を殺してしまう。刃が肉に沈む感触。力が抜けて崩れ落ちる重み。夢だとわかっているのに、目覚めると汗で畳が湿っていた。

三日目の夢は、これまでとはまるで違っていた。

青く澄んだ遠浅の海。
十二歳ほどの少女が赤い水着で波打ち際を走り回っている。少し離れた砂浜では、父親らしき男がバーベキューの準備をしながら、その姿をときどき目で追っていた。

男が炭に火をつけようと視線を落とした、その一瞬だった。

沖合から、異様な速さで何かが迫ってきた。
水面を割る音もなく、ただ影だけが伸びてくる。次の瞬間、少女の首が跳ねた。刃物だったのか、別の何かだったのかはわからない。ただ、噴き出した血が海水に溶け、波が赤く濁っていく様子だけが、異様なほど鮮明だった。

男が海に飛び込み、少女を抱き上げる。しかし、もう動かない。

場面はそこで途切れ、気がつくと彼は喪服の人々に囲まれて立っていた。
少女の葬列だった。

遺影を抱えた祖母と思しき老女が先頭に立ち、一行は海沿いの細い山道を登っていく。やがて辿り着いたのは、波に削られた岩壁に口を開けた暗い洞窟だった。

中は、無数の小石が積み上げられ、赤い前掛けをつけた地蔵が並んでいる。賽の河原のような場所だった。
老女が振り返り、遺影を抱えたまま静かに言った。

「どうか、あの子の無念を晴らしてくださいね」

彼は理由もわからないまま、ただ頷いていた。

次の瞬間、彼は小さな漁船の上に立っていた。
隣には海女のような女がいて、何もない海を見つめながら言う。

「ここだよ」

彼の右手には、小さなナイフが握られていた。

海面が不自然に盛り上がり、黒い影が姿を現す。
それは、上半身が髪の長い女、下半身が蛇、両腕は巨大な鋏のように開閉する異形のものだった。

影は一直線に彼を狙ってくる。
彼は叫びもせず、ただ本能のままナイフを振り下ろした。刃は首元に深く突き刺さり、女の顔が苦悶に歪む。次の瞬間、影は海に沈み、泡だけが残った。

そこで目が覚めた。

右手は、畳に向かって振り下ろされたままだった。

それからしばらくして、遠くカナダに留学していた姉が病気になった。首に腫れが見つかり、手術が必要だという連絡だった。
幸い手術は成功し、命に別状はなかった。

彼は、夢の話を姉にはしなかった。

今でも彼は、あの三日間の夢を思い出さないようにしている。
だが夜中にふと目を覚ますと、右手の奥に、あのときナイフを突き立てた感触が、まだ残っているような気がするという。

(了)

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