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赤い月の廊下 r+7,486

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「絶対、他言無用な?」そう念を押してきたのは、昔からの友人・誠司だった。

だけど人に話すってことは、もう半分、許してるようなもんだろ。そう解釈して、今、こうして打っている。聞いてくれ。この話は、本当に……俺にとっても、もう他人事じゃないんだ。

***

誠司には義光っていう、妙に陰のある友人がいた。
いや、いたって言い方は、まだ早いのかもしれない。どこかに、生きているなら。

俺も二、三回だけ会ったことがある。そのときから気持ちの悪い男だった。無口で、目の奥が死んでて、いつも爪を噛んでる。存在そのものが暗い靄をまとっている感じ。漫画『カイジ』のカジノ編に出てくる社長そっくりで、それを誠司に電話で話したら、「あいつと揉めてな……」と切り出された。

原因は桃鉄だったらしい。くだらない理由だけど、ああいう陰気な奴にとって、ゲームに出る運不運すらプライドなんだろう。

しばらく疎遠だったある日、義光から電話がかかってきたそうだ。
「今から来ないか?」

気まずさを溶かすチャンスだと思った誠司は、すぐ向かった。

ピンポンもチャイムも鳴らない。ノックしても返事が無い。ドアが開いていて、中は真っ暗。

「こっちだ。こっち」

義光の声。

ローソクの明かりだけが、ぼう……っと床を照らしていた。

「停電か?」と聞くと、
「うん、まあ……座りなよ」と義光。

誠司が胡坐をかいた、その瞬間。

「ポンッ」

複数のローソクが一斉に消えた。吹き消す音もなく、まるで指を鳴らしたような乾いた音だったという。

「うわっ」と驚いた直後、義光が一気に目の前のローソクを吹き消す。

その瞬間、背中に何かが……ズン、と重く乗ってきた。そこからグニュウと、体の中に染み込むような感覚。冷たい、重たい、そしてとても人間ではない“何か”。

「ふざけんなよ!!」

誠司が怒鳴ると、義光は急に電気をつけ、ニヤニヤしながら言った。
「馬鹿じゃねーの?儀式だよ、今のでお前に貧乏神が憑いたわ」

「なに言ってんだ、テメェ……」

「土下座すれば、取り除いてやってもいいよ。ほら、早く!クズがッ!!」

誠司はブチ切れて義光を殴った。何発も、殴った。だけど義光は笑いながら血を拭うだけで、やめようとしない。PS2をぶん投げて、ようやくその場を去った。

それからの誠司は……壊れていった。

毎晩、午前三時。耳鳴り、嘔吐、悪寒、頭痛。病院にも行ったが異常はない。

気がつけば、意味不明な日記を書くようになっていた。

俺が見せてもらったその日記には、こうあった。

「めんそ、げら、眠ることはやしけど……ゆうこさん、えび」
「あ、あ、あ、がああ、みてるみてるみてる……だらーうぜーくう」
「きつ月山日 板色 たすけて」

……書いた本人にも意味は分からないらしい。

俺が勝手にスキャンして、保管してある。今もパソコンの奥にある。

***

事態を打ち明けられたのは、誠司の友人・麻比古だった。
神社の息子で、霊感があると昔から言われていた奴。

誠司を一目見て「これはヤバいな」と言い、車に乗せ、目隠しをさせ、どこかへ向かった。

ガタガタと砂利道を走る音、誰かに両腕を抱えられ、建物の中へ。靴を脱がされ、床は冷たくて、湿っていた。

香の匂い。泣きそうになるほど、懐かしくて、切ない匂いだったらしい。

目隠しが取られると、そこは古い木造の建物。天井からロープが下がり、部屋の四隅にはお札。

前に座っていたのは、黒い着物を着た男。麻比古の父親だ。

「よう頑張ったな」

その言葉で誠司は涙が止まらなかった。

しばらく話をして、除霊が始まる。

砂を首筋に塗られ、鈴の音、そして――
体がガクン、と震える。ブルルッ、ブルルッ、と規則的に。

最後に、体が浮くほど大きく震えて、何かが抜けた。確かに、出ていった。

帰り道、目隠しはもうなかった。

「成功率を上げるための演出だからさ」

麻比古は申し訳なさそうに笑った。

***

でも、それだけでは終わらなかった。

家に戻ると、麻比古は廊下を見て「霊道がある」と言った。

姿見を買いに行かされ、廊下の端に設置。霊が通る道に障害を作り、そこに鏡を置くことで、自分が死んでいることに気付かせる……そう説明された。

数日後。

夜中、ミシ……ミシ……と廊下を歩く音。

「ガン!ガシャーン!!」

洗濯機の上に置いていたカゴがぶちまけられていた。霊が暴れたのだ。

「ムシャクシャしてやったんだろうな」

麻比古は笑っていたけど、俺には笑えなかった。

***

それからしばらくして、義光の消息が分かった。

共通の友人・勝男から聞いた話だ。

義光はあのあと実家に戻っていたが――
ある夜、父親に包丁で滅多刺しにされた。

父はそのまま二階から飛び降りて骨折。警察に言わせると、犯行時の記憶は「無い」と言ったそうだ。

母親の証言が、唯一残っている。

「夜、夫が……“この世のものじゃない何かに腕を舐められた”って……」

あの義光が自分の中に封じた“貧乏神”――いや、自縛霊。
場所に縛られていたものを無理に人へと貼り付けた、その報い。

俺が聞いたのは「友人の話」のはずだった。だけど今、時々夜の三時になると、耳鳴りがする。背中が重い気がする。

……日記を、勝手に見たせいかもしれない。
あの意味不明の言葉たちが、ふと頭の中に浮かぶことがあるんだ。

あ、あ、あ、があがあが……

止まらない。止められない。

(了)

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