ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 都市伝説

誰だと聞いてはいけない rcw+14,735-0121

更新日:

Sponsord Link

大きめの姿見がある家に住んでいる人は、一度だけ試してみてほしい。

ただし、絶対に継続はしないこと。

鏡の前に立ち、自分の目を見ながら、こう言う。

「お前は誰だ」

霊的な話ではない。
オカルトでも都市伝説でもない。
むしろ、理屈で説明できてしまう範囲の話だ。だからこそ、逃げ場がない。

この話を知ったのは、当時入り浸っていた匿名掲示板だった。
軍事系のスレッドで、戦時中に行われたとされる心理操作の例として、唐突に投下されていた書き込みだ。

鏡を使う。
名前を否定させる。
自己認識を曖昧にし、判断力を削ぐ。

細かい理屈は断片的で、出典も曖昧だった。
それなのに、やけに生々しかった。

「毎日、鏡の前で自分に問いかけさせる。続けるほど、自分という輪郭が削れていく」

数字も期間も、どこまでが本当かわからない。
だが、だからこそ妙に現実味があった。

その話を読んだ夜、僕と中島は少し浮かれていた。
大学に入り、自由と退屈が同時に押し寄せてきた頃だった。

「ウソくせーな。でもさ、逆に気にならね?」

そう言ったのは中島だった。
彼は怖がるタイプじゃない。むしろ、危ない橋ほど面白がる。

その夜、僕の部屋で試すことになった。
一度だけ。冗談半分で。

蛍光灯を消し、スタンドライトだけを点ける。
姿見の前に立つと、部屋の奥行きが妙に歪んだように感じた。

鏡の中の僕は、当然のように同じ動きをする。
瞬きも、呼吸も、完全に一致している。

……はずだった。

ほんの一瞬、目の動きが遅れた気がした。
気のせいだと思おうとした瞬間、喉の奥がひくりと痙攣した。

「……お前は、誰だ」

声に出した途端、視界がぐらりと傾いた。
胃の裏に冷たいものが流れ込む。
立っていられず、そのまま洗面所で吐いた。出たのは胃液だけだった。

「やっぱヤバいって、これ……」

中島は笑っていた。
「ビビりすぎだろ」

それきり、その話題は終わった。
少なくとも、僕の中では。

数週間後、中島は妙に落ち着いていた。
騒がしかった彼が、必要以上に冷静だった。

講義にも出ている。単位も落としていない。
ただ、視線が合わない。
話しかけると、一拍遅れて反応する。

「……ああ、大丈夫」

その「大丈夫」が、どこにも向いていない気がした。

ある夜、深夜に電話が鳴った。
中島からだった。

『なあ……確認していいか』

声がやけに静かだった。

『俺とお前って、どうやって知り合ったんだっけ』

一瞬、答えに詰まった。
サークルだ。最初は飲み会だった。
そう答えると、受話器の向こうで、深く息を吐く音がした。

『……そっか』

沈黙のあと、彼は続けた。

『あのさ、あれ、まだやってる』

胸が冷えた。

『気持ちいいんだ。鏡の前でさ、考えなくていい感じになる。名前とか、関係とか、全部どうでもよくなる』

すぐにやめろと言った。
冗談じゃない、今すぐだ。

だが、返事は噛み合わなかった。

『大丈夫。これで合ってる。合ってるんだ』

同じ言葉を、少しずつ抑揚を変えながら繰り返す。
そして、ぷつりと切れた。

かけ直す。
何度目かで繋がったが、声が違った。

『……お前、誰だ』

通話はそれで終わった。
それきり、二度と繋がらなかった。

中島は、学校に来なくなった。

後日、親が下宿を訪ねた。
連絡が取れないことを不審に思ったらしい。

洗面所で見つかったという。
三面鏡の前に座り込み、誰もいないはずの空間に向かって話しかけていた。

笑いながら。
まるで、返事が返ってくるのが当然だという顔で。

今は地方の病院に入っていると聞く。
病室には、鏡になるものは一切置かれていないらしい。

僕は、あの一度きりでやめた。
それで終わったはずだった。

それなのに、最近おかしなことがある。

顔を洗って、ふと鏡を見ると、知らない癖が映っている。
視線の角度。
口元の緊張。
昔からの自分では、ありえないもの。

見直せば、確かに僕の顔だ。
記憶も一致している。
何も問題はない。

……ない、はずだ。

けれど、思う。

本当に、これは僕の顔だったか。

――ねぇ、私って、私……だよね?

[出典:467 名前:ゲシュタルト崩壊:2006/05/16(火) 16:29:54 ID:k4IXe2x40]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 都市伝説
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.