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戻ってきた先生 rw+1,960

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元支援員のMさんがX学童で「長」になった年、男子トイレが内側から施錠されるようになった。

もちろん、中には誰もいなかった。

十年以上前、Mさんが勤めていた公立の学童保育所は、A館とB館に分かれていた。一年目はB館を担当し、何事もなく過ごした。

二年目、運営方針が変わって両館が統合された。勤務時間が最も長いという理由で、Mさんは現場の「長」に任命された。

異変が始まったのは、その直後だった。

ある昼下がり、同僚のC先生とD先生が図書館へ出かけた。Mさんが誰もいないはずのB館を見やると、玄関のガラスをピンク色のエプロン姿の女が横切った。

髪形も歩き方もC先生に似ていた。

ただ、その姿は妙に低い位置にあった。上半身だけが小さく縮み、玄関ガラスの下部を浮くように移動していったという。

やがてC先生とD先生が図書館から戻ってきた。C先生はピンク色のエプロンなど着ていなかった。

Mさんが見たものを話すと、二人は顔を見合わせた。

「やっぱり……」

以前、X学童にはピンク色のエプロンを着た女性支援員がいた。職場の人間関係に悩んで心を病み、入院先で亡くなったのだという。

当時の「長」は、自分にも他人にも厳しい女性だった。亡くなった支援員との間にも、何かあったらしい。葬儀に参列しようとした本部職員は、遺族から拒まれていた。

だから周囲は、玄関に現れた女を、亡くなった支援員だと考えた。

それで説明がついたことになった。

だが、奇妙な出来事は、なぜかD先生がいるときに集中した。

無人の男子トイレに鍵が掛かる。棚から物が落ちる。誰もいない部屋から足音がする。

Mさんが自分の声を録音したときには、再生された声が見知らぬ男のものに変わっていた。低くくぐもり、喉の奥に何かを詰めたような声だった。

再生ボタンを押したD先生の手が震えていた。

別の日には、出勤してきた職員へ声をかけようとしたMさんの口から、突然、笑い声が漏れた。

「ヒィー、ヒィー」

笑うつもりなどなかった。息を止めても口を押さえても、引きつった声は止まらなかった。それからしばらく、D先生と二人きりになると、同じ笑い声が勝手に出るようになった。

D先生は穏やかで、冗談好きな人だった。

「うちにも幽霊がいるんですよ」

そんなことを、天気の話でもするように言っていたという。

ある日、玄関の外にいた女の子が、誰に開けてもらったのかと尋ねられた。

「黒い人」

女の子はそう答えた。

そのとき玄関には鍵が掛かっていた。そばのカーテンは、本来動かない方向へ開いていた。

それでも、いちばんMさんの神経を削ったのは、窓の向こうにD先生を見たときだった。

二匹のリスが描かれたエプロン。怒った顔。窓越しに子供たちを睨みつけていた。

見間違えるはずはなかった。

ところが直後、本人のD先生が別の場所から現れた。

Mさんが窓へ目を戻したとき、もう一人のD先生はいなくなっていた。

本部の指示で、お祓いが行われた。

ところがMさんたちが連れていかれたのは、神社でも寺でもなく、見知らぬ一軒家だった。

部屋には一枚の遺影が飾られていた。

亡くなった、あの女性支援員だった。

そこが彼女の家だったのか、誰がお祓いを頼んだのか、なぜ職員たちがそこへ連れていかれたのか。Mさんには何も説明されなかった。

その後、D先生が異動すると、トイレの鍵も、物音も、声も止まった。

Mさんも別の学童へ移り、X学童とは関わらなくなった。

それからしばらくして、D先生が再びX学童へ戻ったという話を聞いた。

男子トイレの鍵は、また内側から掛かり始めた。

Mさんは、あの窓の向こうで子供たちを睨んでいたほうも、一緒に戻ったのだと思っている。

[出典:49 :本当にあった怖い名無し:2022/01/10(月) 16:04:41.39 ID:77SyPtNh0.net]

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