オレ仕事でトラック乗ってました。四トンのルート便ドライバーです。
127 :2002/02/22 21:18
大体朝四時頃から自分のトラックにその日に運ぶ荷物を積みこんで、
出発時間は日によって(コースによって)バラバラだからトラックの寝台で仮眠するって生活続けてます。
この話は二年ほど前になるんですが、ちょうど節分が終わったばかりだったから二月の中旬くらいのことだったと思います。
その日も出勤して倉庫に積まれてる荷を積みこんでたんですよ……
休日出勤だったんで事務所にも倉庫にも誰もいませんでした。
先輩も休日出勤って聞いていたけど予定表をみたら昨夜の便で既に出ている。
オレは八時までに出発すればよかったから積み込みが終わっていつものように寝台で仮眠してました。
寝台っていうのは運転席と助手席のうしろにある空間のことなんですけど寝台の更に後ろはすぐに荷台なんです。
もっとも繋がっているわけじゃなく壁を二枚挟む形になってるんですが、それで、オレ寝台に横になってウトウトしてました。
日が昇ってくると眩しいから顔にタオルを乗せてたんです。
どのくらい寝たか覚えてないんですが、突然荷台側の壁、というか荷台からドンドンドンッ!って壁を叩く音が聞こえたんです。
その音で飛び起きて何事かと思ってすぐに確認したんです。
ウチの会社のトラックは幌車じゃなくてアルミキャビンなので開口部は後ろのゲートと側面のハッチの二箇所なんですが、ゲートは安全のために運転席側から電気的にロックを掛けてたんで荷台内に誰かが入ったとしたらハッチからしか入れません。
で、みたらハッチが開いてる。
その時はまだ完全に頭が起きてないのもあって、ハッチから顔だけ突っ込んで確認したけど誰もいませんでした。
荷物が荒らされた形跡もないですし、泥棒って訳でもない。
その一件ですっかり目が覚めちゃってコーヒーでも飲もうと思って事務所に行ったんです。
そうしたら先輩が休憩室のソファーで寝てました。
昨夜でて今帰ってきたようでした。
さっきの先輩の悪戯かよ!しかも寝たふりしてやがるし……
オレ寝起き悪いんでかなりムカツいて狸寝入りしてるであろう先輩を放置プレイしてコーヒーも飲まずにとっとと配送に出発しました。
その日のルートは200kmほど走って五件の取引先に荷物を届けるコースです。
朝九時に会社を出発して五件目の取引先に到着した時には二〇時になってました。
実は途中でトラックのブレーキ(エアブレーキの方)が完全に逝っちゃって走れなくなったんです。
空荷だったらなんとかなるんですが、過積載気味(笑)に荷物積んでたんでとてもじゃないけど、危ないからってことで急遽サービス会社に電話して路上で応急処置をしてもらったんです。
おかげで三件目以降の取引先の店着時間をオーバーしちゃってクレームを頂いてしまいました。
そんなこんなで五件目でも小言を言われて頭を下げながら最期の荷物をその店に降ろしてたんですが……
気づいたんですよね、そこで。
寝台で寝ていて荷台の壁の音で起きた。
それなのに荷台一番奥(走行方向でいうと前)に荷物が天井近くまで積み上げられてる。
おかしいですよね。
先輩の悪戯だったと思っていたのに、これじゃたとえ荷台内に入っても内側からキャビン裏の壁を叩くなんて真似は出来っこない。
外から叩く事も構造上不可能なんです。
すーっと汗が引いていくのがわかりました。
正直わけがわかりませんでした。
それでも仕事ですから荷物を全部降ろして、取引先のスタッフの方にもう一度お詫びして帰ろうとしたんです。
そしたら呼びとめられまして内心(まだ文句あるのかよ)とキレそうになったんです。
でも違いました。
スタッフの方が
「あの、荷台の中にお連れの方乗せたままでいいんですか……?」
そうきたかっ!って思いましたよ……
「いいんです!」
確認なんかしたくありませんでした。てか出来ませんでした。
ラジオをガンガンにかけて出来るだけ何も考えないように帰りましたよ。
会社についたけど休みの日だし誰もいっこない。
タイムカードを押して速攻帰ろうと思って事務所に行ったんです。
そしたら誰もいないと思ってた事務所に先輩がいたんです。
あの時ほど先輩の存在が嬉しかった事はありません。
でも、変なんですよ。
先輩、朝みた時と同じ格好でソファーで寝てるんです。
すぐに気づきました。
先輩の肌の色が生きている人間のそれじゃないってことに……
そのあと一応救急車と警察を呼んで色々事情聴取みたいなことをして、結局家に帰ったのは翌日の三時をまわってました。
翌日、翌々日と休暇を貰って翌翌々日ですか、出社したんです。
そこで初めて知ったんですが、先輩自殺だったらしいんです。
司法解剖の結果、体内からアルコールと眠剤だったか安定剤が大量に検出されたそうです。
死亡推定時刻はオレが先輩を見た(出発前の朝)三時間前後あとでした。
ということはあの時先輩はまだ生きていたことになるんです。
後悔の念で涙が出ました。
あの時もしオレが先輩の異変に気づいていればもしかしたら……ってやつです。
でも、思ったんですよ。
だったらあの壁を叩く音はなんだったんだろうって……
さらに詳しく聞いた話だと先輩がアルコールと薬を摂取したのはオレが積み込みをしていた時間だったって聞いたんです。
あの音は先輩の悪戯だった可能性は低いってコトになるんです。
大体これから自殺をする人間がそんなお茶目な事をするなんて考え難いし。
そういえば最後の取引先でスタッフの方が変なことを言っていたのを思い出しました。
あの人にどんな人が荷台に乗っていたかを聞けば何かわかるかもしれない。
次に配送に行った時にさりげなく聞いてみよう。
そう思いました。
結局それは実行出来なかったんですが。
後日談
出社したさらに翌日。
警察の方から出頭要請がありました。
なぜか社長も一緒です。
警察の方に聞いた話は衝撃的でした。
当初先輩の自殺理由は誰も思い当たらなかったんです。
独身ですが、一応カノジョもいるし、とても明るくて職場のムードメーカーでもありました。
家族や友人に聞いても誰も思い当たるふしはない。
突発的な自殺、ということで片付けられるところだったんです。
しかし自殺動機が警察の方で浮かんだと言うのです。
先輩は自殺前々日の夜、飲みに出かけたらしいのですが、(家族談)
帰ってくるとすぐに出勤したそうです。いつもより数時間はやく。
そしてその日。
先輩の走ったコースの途中の山間部で老人の遺体が遺棄されているのが見つかったそうです。
遺体は損傷がひどく検死の結果交通事故に巻き込まれた可能性が高いということでした。
そうです、先輩が配送の途中でそこに遺棄したのです。
警察の調べで先輩の車のバンパー部分にあり、その部分の塗装と遺体の衣服に付着していた塗装が一致したということでした。
警察の要請で会社のトラックを調べたところあるトラックの荷台内の床から血液反応が確認されたそうです。
そのトラックはあの日オレが乗ったトラックでした。
あの叩く音が先輩の霊だったのか事故の被害者の霊だったのか、はたまたオレの気のせいだったのかはわかりません。
いえ、もうどうでもいいです。
ボクは次の日会社を辞めました。
もう二度とトラックには乗るつもりはありません。
最後に。
長々と書きこんでしまいましたが読んでくれた人、ありがとうございました。
ウチの方は田舎で車がないとなにも出来ないような土地柄なのですが、オレは出来るだけ運転はしないようにしています。
あのドンドンドン!という音が忘れられないとていうのもありますが先輩の死後、お悔やみに行った時の家族やカノジョの顔。
絶対に忘れられません。
車を運転している以上何時何処で殺人を犯してしまうかわかりません。
この話をする事でオレが伝えたかったのはその事です。
これを読んでくれた方。
どうか車の運転には気をつけてください。
欺瞞かもしれませんがみなさんがこれで少しでも安全運転を意識してくださればきっと被害者の方の供養にもなると思います。
稚文な上に長文失礼しました。
(了)