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消えぬ焔 r+3626

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これは、仲間数人と山中でキャンプをした時の体験談である。

夜も更けて、皆がテントに潜り込み寝静まった後、焚き火のそばで火を見つめていたのは彼一人だった。炎の光が揺らめき、静寂の中で火のはぜる音が微かに聞こえる。闇に囲まれ、彼の意識も少しずつ朦朧としてきた。

その時だった。不意に「何しているんだい?」と、耳元で囁くような声がした。顔を上げると、焚き火を挟んで向かい側に誰かが座っていた。大きな黒い影のようなものがそこにあったが、はっきりとは見えない。視界に霞が掛かったかのように、その輪郭がぼんやりと曖昧だった。

奇妙なことに、恐怖は感じなかった。むしろ、眠気のせいか、その影に対して普通に返事をしてしまった。「んー、火の番をしてるんだ」何者なのか、なぜこんな夜中に目の前にいるのか、そうした疑問は不思議なほど頭に浮かばなかった。

すると、黒い影は低く笑うような声を出し、再び問いかけてきた。「その火が消えたらお前さんどうする?」

「んー、消えないよ」何か夢の中で会話しているような感覚に陥っていた。

「こんな山の中で火が消えたら、一寸先も見えない真っ暗闇だろうな」

「んー、この火が消えちゃったら、そうなるだろうね」と言葉を返しながら、ぼんやりとした頭で、相手の正体について考えようとするも、何故かそれは頭の片隅でかすんでいく。

黒い影はしつこく火を消すように勧めてきた。「もう火の番なんかやめちまえよ。眠いんだろう、寝ちゃえよぐっすりと」

「んー、そうしたいけど…火が消えたら暗いからなあ」と呟くと、影は「俺が代わりに火を見ててやるから、もうライターをくれよ」と言い始めた。

「んー、でもこれは僕の大事なものだから」と拒んだ。すると影は「消すぞ」と、重々しい声で言ったが、彼もそれに応じて「んー、でも直ぐまた点けるよ、暗いのは嫌だから」と変わらず返事をしていた。

どれほどこのやり取りが続いたのだろうか。やがて、影は諦めたようにゆらりと立ち上がった。「火が消えないんじゃしょうがないな。帰るとするか。また遊ぼう」と、どこか残念そうな声を最後に、黒い影は深い山の闇へと静かに消えていった。彼は、ふと口から「バイバイ」とつぶやいてしまった。

すると突然、肩を激しく揺さぶられる感覚がした。「おい、おい!今一体何と話してたんだ!」目を開けると、仲間が蒼白な顔で彼を見つめていた。周りを見ると、テントから他の仲間も顔を出し、こちらを恐る恐る見つめている。

仲間の一人が小声で教えてくれた。「さっき、テントの外で何かの声が聞こえて、目が覚めたんだ。最初は誰かが独り言でも言ってるのかと思ったけど、テントの中を確認したら、みんな寝てて…お前だけが外にいたんだよ。で、そっと外を覗いてみたら、お前の前に、黒い何かが座ってて…」

友人が見たというその「黒い影」は、人のような姿でありながら異様にぼやけて見えたらしい。彼は必死に焚き火を消さないようにするかのように影と押し問答をしていたのだが、どうやら黒い影は執拗に火を消させようとしていたらしい。

「絶対に火を消すんじゃないぞ!」テントの中で見守っていた仲間は心の中で叫び続けたという。そして、しばらくするとその影は立ち上がり、彼らを無視するように山の闇へと消えていった。テントの中では全員が息を殺し、影が完全に見えなくなるのを待っていた。

やっと影が消え去ったことを確認した仲間は、急いでテントから飛び出し、火の側でぼんやりしていた彼を揺さぶって目を覚まさせたのだ。

彼はふと、黒い影が去った方角を見つめてしまった。そこにはただ深い闇が広がり、薪がはぜる音だけが響いていた。恐怖が後から押し寄せ、背筋がぞくりと冷たくなる。

その後、仲間たちは山を下りるまで決して火を絶やさないことに決めた。交代で二人ずつ火の番をするようにし、不寝番が絶えないように注意を払った。それ以来、黒い影が姿を現すことはなかった。

彼は今でも思い返しては疑問に思う。「あの時、僕は一体何と会話していたんだろうか?」その言葉を口にするとき、決まって彼の背にはぞわりとした冷気が走るのだという。

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