誰に話しても信じてもらえない出来事がある。
先週の土曜日、友人と怪談話をしていたときのことだ。その友人が知人から聞いたという、妙な噂を教えてくれた。
「日暮里駅の改札を出て右手にある階段。23段目で振り返ると面白いものが見える。」
面白いものって何だよ、と思いつつ、その話はその場で罰ゲームに発展した。夜中の2時前、俺は原付で一人、日暮里駅へ向かうことに。罰ゲームとはいえ、そこまで怖い気もせず、正直、軽いノリだった。
駅に着いて、噂の階段を見つけた。左手にはコンビニの灯りがあって、まったく怖くない。なんだ、大したことないな、と思いながらスタスタと階段を登り始めた。
ところが10段目あたりで、突然背中に冷たいものが走った。ゾワッと鳥肌が立ち、異様な寒気に襲われた。それでも「罰ゲームだし」と我慢して23段目まで登る。そして振り返ろうとしたのだが――なぜか、恐怖で首が回らない。
デジカメの電源を入れ、意を決して振り返った。
その瞬間、階段の下、5段目くらいのところに黒い塊のようなものが見えた。最初は「何だ?」と思っただけだが、その黒い塊はどんどん鮮明になっていく。目を凝らしてみると、それは黒髪の女の子だった。体育座りで階段に座り、こちらをじっと見つめている。
次の瞬間、女の子は立ち上がり、ゆっくりと階段を登り始めた。俺の方へ向かってくる。足がすくんで動けない。彼女の顔はぼやけていて見えないが、口元だけは笑みを浮かべているように見え、何かを言っている気がした。
頭の中が真っ白になったそのとき、背後から声が聞こえた。
「帰れ、帰れ。」
驚いて振り向くと、階段の上におばさんが立っていた。
「帰らんといけんよ。」
おばさんの言葉と同時に、背後の女の子がふわっと消えたような気がした。俺は軽く叫びながら、階段を駆け上がっておばさんのところまで走った。そこから振り返ると、もう女の子はいなかった。
息を整えながらおばさんに尋ねる。
「あれ、何なんですか?」
するとおばさんは静かに答えた。
「知らんでええから、はよ帰り。」
言われるがまま、俺は階段をデジカメに撮影し、急いで帰った。そして友人に一部始終を話したのだが――信じてもらえない。「嘘つけ」と笑われて終わりだ。正直、かなり悔しいし、哀しい。
これまで幽霊の存在なんて信じていなかった。どちらかといえば完全な否定派だったのだが、今回の体験で一気に考えが変わった。
今度、友人を一人で日暮里の階段に行かせるつもりだ。誰か、この階段について何か知っている人はいないだろうか?
(了)
[537 :本当にあった怖い名無し:2005/09/20(火) 01:28:19 ID:fu4qQ7k10]