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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

何度目の十月二日 nc+

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タイムリープに成功したけど質問ある?

そう書き込んだ瞬間のことは、よく覚えていない。
焦っていた、という感覚だけが残っている。手が震えていたのか、キーボードを叩く音がやけに大きく感じられた気もする。

やべぇ。
まじでやべぇよ。

そう打ち込んだ直後、画面の向こうに誰かがいるという実感だけが、異様に生々しかった。

俺は確かに、十月六日の夜に寝た。
疲れていた。布団に入って、天井を見上げて、いつの間にか意識が落ちた。そこまでは普通だ。

夢を見た。
いつもの夢とは違った。自分が出てこない。どこかの公園の一角を、少し高い位置から眺めている。監視カメラの映像みたいに、固定された視点。ベンチ、遊具、知らない木。誰もいない。

そのとき、ふと思った。
あれ、俺いないな。

気づいた瞬間、映像が剥がれた。
視界も音も消えて、感覚だけが残る。体があるはずなのに、手も足もわからない。もがいているのに、動いている感じがしない。時間の感覚もなくなって、どれくらいそうしていたのかもわからない。

突然、また映像が戻った。
さっきの公園。今度は、そこに立っている自分が見える。後ろ姿だ。
視点が、吸い込まれるように近づいていく。

次に目を開けたとき、テレビがついていた。
ニュース番組。日付は、十月二日。

最初は混乱した。寝坊だと思った。
けれど、母親に聞いても、今日は二日だと言う。
スマホを見ても、カレンダーは二日だった。

それだけなら、記憶違いで済ませられたかもしれない。
だが、部屋がおかしかった。

クローゼットに、見覚えのない服がある。
パソコンに、インストールした覚えのないソフトが入っている。
自分の痕跡が、自分の知らない形で増えている。

怖くなって、スレを立てた。
信じてもらえるとは思っていなかった。ただ、書かずにはいられなかった。

レスがつき始める。
やり方を聞かれ、証拠を求められ、厨二だと笑われる。
その中に、妙な書き込みが混じった。

「何度このスレ立てれば気が済むんだ」

意味がわからなかった。
初めてだ。俺は一回しか、ここに来ていない。

だが、別のレスが続く。

「お前は毎回、二〇一二年十月二日に同じスレ立ててる」

背中が冷えた。
ログを遡っても、過去のスレは見つからない。
けれど、断定するような口調だけが、やけに現実味を帯びていた。

俺は予言めいたことを書いた。
前の世界で見たニュース。地震。食中毒。事件。
自分でも曖昧だった。日にちも細部も、正確じゃない。

翌日、東北で地震が起きた。
日付は違ったが、規模は近い。
次の日、集団食中毒のニュースが出た。内容は微妙に違う。

当たっている、と言われ始めた。
俺自身が、一番信じられなかった。

世界は同じじゃない。
だが、違いきれてもいない。

十月六日が近づくにつれ、胸の奥がざわついた。
眠るのが怖かった。
それでも、眠気は容赦なく落ちてくる。

最後の書き込みをしたあと、意識が途切れた。

気づいたら、またテレビの前だった。
ゲームのコントローラーが床に落ちている。
母親は言った。七時からずっとゲームしていた、と。

画面を見る。
日付は、十月二日。

スレは、もうなかった。
代わりに、新しいスレが立っている。

タイムリープに成功したけど質問ある?

投稿時間は、さっき。
IDは、見覚えがあるようで、ない。

スクロールする。
最初の書き込みに、こうあった。

やべぇ。
まじでやべぇよ。

指が止まる。
胸の奥で、何かが沈む。

俺は、ここに何度来た。
そして、前にいた俺は、どこへ行った。

キーボードに手を置く。
書き込むべきか、迷う。

けれど、もう知っている。
書き込まなくても、同じ流れになる。

この世界では、必ず誰かが気づく。
「何度目だ」と言う。

画面の向こうで、誰かが待っている。
それが俺なのか、俺だったものなのかは、もう区別がつかない。

日付は、十月二日。
また、始まっている。

[出典:1 :名も無き被検体774号+:2012/10/02(火) 22:54:15.39 ID:9cNjx6wZ0]

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