短編 土着信仰

女が死んだ時行われる奇妙な風習【ゆっくり朗読】8200

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俺の実家の小さな村では、女が死んだとき、お葬式の晩は村の男を十人集め、酒盛りをしながらろうそくや線香を絶やさず燃やし続けるという風習がある。

ろうそくには決まった形があり、仏像を崩したような形をその年の番に抜擢された男のうち最も若い者が彫る。

また、家の水場や窓には様々な魔除けの品を飾り、それらが外れないよう見張る。

また、番人以外はその夜、たとえ家人であっても家の中に入ってはいけない。

他にもいくつか細かい決まりがあるのだが、これらは、キャッシャと呼ばれる魔物から遺体を守るために代々受け継がれている風習だった。

十六になった俺が初めてその夜番に参加した時のこと。

近所の新妻が若くして亡くなった。

ろうそくを昼間のうちにじいちゃんに教えられたとおり彫りあげ、夜更けには火を灯し、宴会に入った。

メンバーは若い者から中年、年寄りまで様々で、俺以外は夜番を経験しているものばかりだった。

うちの家族からは俺と五つ上の兄貴が参加した。

宴会は粛々と進み、(というか年寄り以外は番に対してやる気なし)

ガキの俺からしても、どう見ても気まずい雰囲気のまま時間だけが過ぎた。

俺は酒を飲ませてもらえなかったため、ジュースでしのいでいたが、さすがに一時をまわったころ、眠気には勝てず、洗面所に顔を洗いに行った。

ふと見ると、洗面所に二か所あるうちの小さく目立たない方の窓に飾った魔除けが傾いていた。

すべての窓の魔除けは一時間に一回、兄貴を含む若い者が見回っていたのだが、おそらく面倒で途中から厳密な確認を怠っていたのだろう。

本来ならば、見つけた瞬間年寄りに報告し、飾り直さなければいけないところ、面倒になり、自分でまっすぐに直して放っておくことにした。

それが原因で兄貴らが爺さん達に叱られるのも見たくないという思いもあった。

席に戻ると間もなく、ものすごい音で玄関を叩く音が聞こえた。

驚き、数人で玄関へ向かうと、隣家のおじさんが血相を変えてまくし立てた。

「キャッシャがでたぞ!おれの家の屋根から塀づたいにこの家に入っていったぞ!」

一瞬なにを言ってるんだ、とあきれたが、爺さんたちや中年たちは真っ赤になって、見回りを怠っていた兄貴たちを怒鳴り付け、あわてて家中の確認にむかった。

玄関先に残ったのは俺と俺の先輩と兄貴の三人。

隣のおじさんはさも当然のように家に上がろうとしたが、兄貴が決まりを破るわけにはいかないと止めた。

おじさんは「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!はやく魔除けを直すんだ!入れなさい!」と怒りだした。

兄貴や先輩がなだめるもおじさんは聞く耳持たず、次第に「入れろおおおおおお!」とか「うああああああ!」とか奇声を発するようになった。

しかし、身体は直立不動のままで、顔だけしかめながら怒鳴っている。

視線がうつろで、どこを見ているのかわからない。

魔除けのことのうしろめたさもあり、これ以上決まりを破るわけにはいかない、と俺達全員考えていたと思う。

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とにかく凄い声で怒鳴り続けるおじさんをなだめた。

時間にして一〇分くらいだろうか、おじさんは大きくため息をつき、もういい、と言い、戸を閉めて去って行った。

ほぼそれと同時に爺さんが戻り、「水場の魔除けの向きが変わっていた!」と俺達を叱りつけた。

みなが集まったところで、隣人のおじさんの話をすると、全員顔面蒼白になり、だれともなく、

「キャッシャだ、キャッシャがでた……」とつぶやいた。

その晩は明け方まで酒をやめ、総出で厳重な見張りを続け、その後は何事もなく夜明けを迎えた。

俺ははっきり言って生きた心地がしなかった。

後日のこと。

隣家のおじさんはその夜、突如風邪を引いて寝込んでしまい、奥さんが夜遅くまで看病していたとのこと。

問題の時刻に奥さんはまだ看病を続けており、おじさんは確かに布団に横になっていた。

外には一歩も出ていないとのこと。

魔除けには厳密な飾り方があり、その作法も教わったはずなのに、俺はろくに聞いていなかったようだった。

言い伝えでは、火や魔除けに不備があるとキャッシャが家に入りこみ、死体(というか魂のようなニュアンスなのか?)を盗みにくる。

死体を盗まれた家はもう栄えることはないらしい。

キャッシャと仲良くなってはいけない、キャッシャに気に入られると、自分が死んだとき必ず家に来るとか。

番に参加した爺さんには、最後にキャッシャが出たのはもう何十年も前のことだったとか、その爺さんの父親が若いころ見たらしい。

お前らの世代がそのような体たらくでは村が滅びるぞ、とこっぴどく叱られた。

俺の身の周りでおきた唯一の恐怖体験です。

(了)

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