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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026 オリジナル作品

🚨すみません、ここどこですか iwa+

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「すみません、ここどこですか」
深夜二時過ぎ、その女は毎月一度、同じ服装でコンビニに現れた。
防犯カメラには映らないのに、自動ドアだけは確かに開いた……

二〇二四年三月。
茨城。

この話は、偶然聞いた。

深夜にコンビニに入った。取材帰りで、長野から東京に戻る途中、常磐道を降りて国道沿いのコンビニに寄った。コーヒーを買い、イートインスペースで一息ついていた。

レジにいた店員――名札には「小沢」とあった――が、私のコーヒーカップを見て「取材ですか」と声をかけてきた。私がICレコーダーをテーブルの上に出していたのを見たらしい。怪談を集めていると答えたのは、半ば冗談だった。

小沢大輔さん(仮名)、三十代前半。このコンビニの夜勤スタッフだ。彼は少し笑って、「じゃあ一つありますよ」と言った。

客のいない深夜のコンビニのイートインスペースで、小沢さんはレジカウンターに寄りかかりながら話してくれた。

小沢大輔がこのコンビニで夜勤を始めたのは三年前だ。週四日、二十二時から翌朝六時まで。国道沿いの店で、深夜はトラックの運転手か、近隣の工場の夜勤明けの作業員が主な客だった。

最初にその女が来たのは、一年半ほど前の夏だった。

午前二時過ぎ。自動ドアが開いた。入ってきたのは三十代くらいの女性で、白っぽいブラウスにベージュのスカートという格好だった。真夏なのに上着もなく、手ぶらだった。バッグも持っていない。

女性はまっすぐレジに来て、小沢に言った。

「すみません、ここどこですか」

道に迷ったのだろうと小沢は思った。この辺りは夜になると街灯が少なく、土地勘のない人間には分かりにくい。小沢は店の住所を伝え、近隣の交差点の名前を教えた。

女性は「ありがとうございます」と言って店を出た。何も買わなかった。

深夜のコンビニには変わった客が来ることがある。小沢はいちいち気にしない性質だった。

一ヶ月後。やはり午前二時過ぎ。自動ドアが開いた。

同じ女性が入ってきた。同じ服装だった。白いブラウスにベージュのスカート。手ぶら。

「すみません、ここどこですか」

同じ質問だった。小沢は同じ答えを返した。女性は礼を言って出ていった。

小沢はこの時点で「常連」だと認識した。深夜に同じ時間に来て同じことを聞く。変わった人ではあるが、危険な雰囲気はなかった。精神的に不安定な人かもしれないと思った程度だった。

三度目。翌月。同じ時刻、同じ服装、同じ質問。

四度目。また翌月。

小沢は数えるようになった。女性は毎月一度、必ず午前二時過ぎに来て、「すみません、ここどこですか」と聞いて帰る。曜日はバラバラだった。日付も毎月異なる。ただし月に一度、必ず一回。

「服装は毎回同じですか」と私は聞いた。

「同じです。白いブラウスとベージュのスカート。季節が変わっても同じ格好でした。冬でも上着なし。靴も同じ――白いパンプスです」

「会話はその一言だけ」

「最初の何ヶ月かは、そうでした。こっちが住所を教えると、ありがとうございますって言って出ていく。それだけです」

小沢は気になることがあった。防犯カメラだ。

コンビニには店内と入口に防犯カメラがある。小沢は夜勤明けに、女性が来店した日の映像を確認してみた。

午前二時過ぎ。自動ドアが開く映像が残っていた。ドアは確かに開いている。だが、入ってくる人の姿が映っていなかった。

ドアが開き、閉まる。その間に人が通った形跡がない。

レジ周辺のカメラも確認した。小沢がレジカウンターの前で誰かに話しかけている映像が残っている。口が動いている。だが、小沢の目の前には誰もいなかった。

「最初に見た時は機械の不具合かと思いました」と小沢さんは言った。「でも、同じ時間帯に来た他の客はちゃんと映ってるんです。彼女だけが映らない」

小沢はそれでも、大騒ぎはしなかった。

「映らないものは映らないし、見えるものは見える。俺の目の前に立って話してるんだから、いることはいるんでしょう。カメラに映らないだけで」

それが半年続いた。月に一度。同じ服装。同じ質問。カメラには映らない。自動ドアだけが開閉する。

変化があったのは、十一ヶ月目だった。

その夜も午前二時過ぎに女性が来た。自動ドアが開き、白いブラウスの女性がレジに向かって歩いてきた。

小沢は住所を言おうとした。もう暗記している。毎月同じ答えだ。

だが、女性はいつもの質問をしなかった。

代わりに、少し笑った。

「やっと見つけた」

小沢は面食らった。一年近く通っておいて、何を見つけたのか。

女性はそのまま店内に入っていった。レジを通り過ぎ、商品棚の方に歩いていった。小沢はレジから出て後を追おうかと思ったが、やめた。万引きの警戒はあったが、手ぶらの女性が何を盗むのかという気もした。

女性は飲料の棚の前で立ち止まり、ペットボトルの水を一本取った。それからレジに戻ってきた。

「これ、ください」

初めて買い物をした。小沢はバーコードを通し、金額を告げた。女性はスカートのポケットから小銭を出して払った。百円玉と十円玉。

小沢はレジ袋に入れようとした。

「いいです、このままで」

女性はペットボトルを受け取り、蓋を開けてその場で一口飲んだ。それから「ありがとうございます」と言って店を出た。

自動ドアが閉まった。

「その時は、ああ、今月はちょっと違ったな、くらいにしか思いませんでした」と小沢さんは言った。

翌朝のことだった。

小沢が夜勤を終えて帰ろうとすると、店の前の国道にパトカーが停まっていた。二台。国道の片側が規制されていた。

日勤の店長に何があったか聞くと、「明け方に遺体が見つかった」と言われた。

店から百メートルほど国道を南に下った路肩で、女性の遺体が発見されたのだ。身元不明。三十代くらい。白いブラウスにベージュのスカート。白いパンプス。

死因は交通事故だった。ひき逃げと見られている。遺体の損傷から、死亡推定時刻は前夜の午前一時から三時の間とされた。

「俺が応対したのは午前二時過ぎです」と小沢さんは言った。「死亡推定時刻の範囲内です」

「その女性が、一年間通っていた人と同一人物かどうかは」

「確認のしようがありません。カメラに映っていないんだから。でも服装は同じです。白いブラウス、ベージュのスカート、白いパンプス」

「所持品は」

「警察の発表では、所持品なし。身分証も財布もなし。身元不明のまま捜査中――たぶん今でもそうだと思います」

小沢さんはレジカウンターの下から、小さなビニール袋を取り出した。中に百円玉一枚と十円玉数枚が入っていた。

「あの夜、彼女が払った金です。レジには入れました。でも気になって、同額を自分のポケットから出して入れ替えた。彼女の小銭はこっちに」

私は袋を見た。普通の硬貨だった。

「幽霊の金なら消えるんじゃないか、と思ったんです」と小沢さんは言った。「でも消えない。普通の金です。自販機でも使える」

小沢さんはそこで少し間を置いた。

「一つだけ、分からないことがあるんです」

「何ですか」

「彼女は一年間、『ここどこですか』って聞き続けていた。俺は毎回、住所を教えた。同じ住所を。彼女は礼を言って出ていった。でも翌月また来て、同じことを聞く。俺の答えを聞いても、自分がどこにいるか分からなかった。ずっと迷っていた」

小沢さんはカウンターに両手をついた。

「で、最後の夜に『やっと見つけた』って言った。水を一本買って、出ていった。その日のうちに――もうすでに死んでいる状態で――国道の路肩で見つかった」

「彼女が見つけたものは何だったと思いますか」

小沢さんは首を振った。

「分かりません。ただ、見つけた後に死んだのか、死んだから見つけたのか、どっちなのかなって。時系列がおかしいんですよ。死亡推定時刻は午前一時から三時。俺が応対したのは二時過ぎ。あの時すでに死んでいた可能性がある」

「最初から、ずっと」

「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。分からない。ただ、毎月来てたのは――毎月、自分がどこで死んだか探してたんじゃないかって。そんな気がします」

コンビニを出ると、国道は静かだった。車の音もない。街灯の下で、路肩のアスファルトが白く光っていた。

店から百メートル南。そのあたりに目を向けたが、暗くて何も見えなかった。

小沢さんは「また来たら住所教えますよ」と笑った。レジに戻っていく背中を見ながら、私は思った。彼女はもう来ないだろう。見つけたのだから。

ただ、見つけたものが「自分が死んだ場所」だったのだとしたら――それは、救いなのだろうか。

[志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]

この話は、志那羽岩子が記録した十八話のうちのひとつです。

怪談を集めるつもりはありませんでした。けれど、一つ聞くと、次が来る。団地の角部屋の話を聞いたあとから、まるで順番を待っていたみたいに、別の場所で別の話が集まりはじめました。

『蒐集者の手帳 忘れられなかった十八の怪談』は、フリーライター志那羽岩子が、取材の途中で出会い、どうしても忘れられなかった十八の怪談を記録した一冊です。実話怪談ふうの聞き書き形式で進みながら、読み進めるほど、記録者である岩子自身の気配も濃くなっていきます。

この一話のあとにも、まだ十七話が残っています。
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