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ログは、まだ動いてる。~『在宅勤務ログ』ができるまで【Kindle出版】

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この作品には、地の文が一行もありません。

会話もなく、ナレーターもいません。あるのは、PC操作ログ、受信メール、チケット管理システムの記録、1on1の議事録、社内Wikiの編集履歴、そして主人公がひとりで書き続けた個人メモだけです。

小説と呼んでいいのかどうか、正直なところ迷います。でも、これ以外の形では書けなかった。そういう作品です。

発端は「怖さの正体」を探すことでした

職場の怪談というジャンルがあります。上司が実は幽霊だった、とか、深夜のオフィスに何かがいた、とか。そういう話ではなく、もっと手前にある怖さを書きたかったんです。

リモートワークが当たり前になって、人は画面の向こうの相手を「実在する」と確認する手段をほとんど失いました。声はあっても顔は見えない。返信は来るけれど、それが本人かどうかわからない。ステータスは「オンライン」になっているのに、本当にそこにいるのかどうか。

その感覚は、幽霊話よりずっとリアルだと思いました。なぜなら、今この瞬間も、誰もがそれを体験しているから。

ドキュメントだけで恐怖を作れるか

発想の出発点は「記録」でした。

私たちは日常的に大量のログを生成しています。メール、チャット、タスク管理ツール、操作履歴。それらは無機質で、感情を持たず、ただ事実を記録するだけのものです。でも、その記録が「おかしなこと」を示し始めたとき、何が起きるでしょうか。

地の文がなければ、読者は登場人物の内面を直接知ることができません。感情は、メモの文体の変化や、議事録の行間や、送信されなかったメールの存在から、自分で読み取るしかない。その不自由さが、かえってリアリティを生むと考えました。実際の職場でも、私たちは相手の「記録」からしか相手を知ることができないのですから。

主人公・朝倉灯について

主人公の朝倉灯は、業務改善グループに所属する32歳の女性で、フルリモート歴4年です。記録癖があり、日常的に個人メモを残す習慣を持っています。

この「記録癖」は、物語を成立させるための設定でもありますが、それだけではありません。何かがおかしいと感じたとき、人はどう対処するか。声を上げるのが難しい状況で、自分の認識を確かめるために記録を続ける——その行為自体が、現代の職場における孤独の形だと思っています。

上司の牧田誠司は、毎週月曜の9時ちょうどに「今週もよろしくお願いします」というメールを送ってきます。送信予約なのか、本当に毎週9時に送っているのか、朝倉には確認する方法がない。その小さな不確かさが、物語全体を貫く不安の種になっています。

プロローグについて、少しだけ

本編は、日時も名前も伏せられた深夜3時47分のPC操作ログ一件から始まります。

たった一行です。でも、最後まで読んでからもう一度この一行に戻ったとき、意味が変わります。そういう構造を最初に決めてから、逆算して書きました。エンディングを先に設計して、そこに向かって記録を積み上げていく——ドキュメント形式の作品だからこそできる方法だったと思っています。

読んでいただける方へ

怖い話が得意でない方にも、読んでいただけると思っています。血も出ませんし、化け物も出てきません。出てくるのは、どこにでもありそうなメールと、議事録と、タスク管理ツールの画面だけです。

ただ、読み終えたあと、自分の受信トレイを開くのが少し怖くなるかもしれません。

『在宅勤務ログ』は、Kindle Unlimitedでお読みいただけます。

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