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短編 山にまつわる怖い話 n+2026

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郷土史家から聞いた話だ。

長野県の東信地域に伝わる、ある姨捨(おばすて)の話である。楢山節考で知られる姨捨山伝承とは別系統の、より生々しい口減らしの記録だった。

明治期、道路拡張工事の際に、奇妙な遺構が見つかった。
深山の奥ではない。村の神社の裏手、日常的に人が立ち入る裏山の一角だった。掘り返された土の中から、人骨が出てきた。それも、寝かされた状態ではなく、立つか座るかした姿勢のまま。

最初は墳墓跡と考えられ、近郊の史家が調査に入った。だが、骨の状態や埋められ方が、墓制とは明らかに異なっていた。周辺の古老への聞き取りで、忘れられていた習慣が浮かび上がる。

生産能力を失った老人を、首だけ出した状態で土中に埋める。
完全に捨てるのではない。数日間は水や食事を与える。会話もあったらしい。期限が決まっていたのか、衰弱死を待ったのかは分からない。ただ、やがて世話は途絶え、老人はその場で死んだ。

遺構が見つかった場所は、まさにそのための場所だったという。
村から遠すぎず、だが生活の場からは一線を引いた位置。神社の裏というのも、境界として選ばれたのだろう。

調査記録の末尾には、奇妙な一文が添えられていた。
その周囲では、夜になると人魂が飛ぶことがあった、と。

郷土史家は淡々と語ったが、その声はどこか硬かった。
人魂が飛んだという話自体は、どこの村にもある。だが、ここでは理由がはっきりしすぎている。土の中に埋められ、意識があるまま死を待つ人間が、何を思ったのか。

当時の人々にとっては、村を守るための当然の選択だったのかもしれない。
だが、夜の裏山で揺れる火が、ただの自然現象だったとは思えない。
人魂は、捨てられた者の恨みではなく、まだ家族だった者を見続ける視線だったのではないか。
そう考えると、その土地を歩く足が重くなる。

[出典:672 :Lightning Oiseaux 9 ◆/7BXYOpSKI:2009/07/07(火) 14:48:01 ID:LHvDIkhz0]

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