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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

おーい〇〇さん! n+

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中学の同級生のことを、私は一度も思い出したことがなかった。

名前も、顔も、声すらも。
けれど十三年後の梅田で、まるで忘れるはずのない親友のように声をかけられたのだ。

「おーい〇〇さん!」

最初に呼ばれたとき、心臓が妙な跳ね方をした。仕事関係の人だとまずいと思い、反射的に笑顔をつくって「どうもどうも」と返した。
男はにやにや笑いながら、「絶対分かってないやろ、俺や、Aやで」と名乗った。
A? 耳慣れない響きに脳の奥を必死に探ったが、答えは出ない。彼は「久しぶりやな」「元気そうやんか」と昔馴染みのように話しかけてきた。
私はただ頷くだけ。冷や汗が頬を伝っていった。

別れた後、仕事の人ではなさそうだと分かり、やっと息がつけた。ならば小中学校の同級生か。高校大学は女子校だったし、男であるはずはない。
気味の悪い引っ掛かりを抱えたまま実家に帰り、卒業アルバムを開いた。ページをめくると、確かにそこに「A」という名前があった。
けれど見ても見ても、何も思い出せない。写真の中の顔は、記憶のどの引き出しにもつながっていなかった。

当時の友人に聞いてみると、Aは不登校だったらしい。一年の前半しか通わず、その後はずっと欠席していたと。
同じクラスにもなっていないし、話したこともないはず。知らなくて当然だと友人は笑った。
では、なぜ彼は私の名前を知っていたのか。なぜ十三年経って私の顔を見て分かったのか。胸の奥で小さな針がじくじく刺さっているように気持ち悪かった。

そのもやもやを抱えたまま一ヶ月ほど過ぎた頃、仕事で東京へ行った。
三日目の夜、ホテルへ向かう途中、また背後から声が響いた。

「おーい〇〇さん!」

頭が真っ白になった。まさかと思い振り返ると、そこにAがいた。大阪から遠く離れた東京の街で。
彼は満面の笑みを浮かべ「また会ったね」と言った。私は震える声で「ごめん、急いでるから」とだけ告げ、逃げるようにホテルへ戻った。
偶然……? そんな言葉では説明できなかった。半年しか同じ学校にいなかった人間と、十年以上の空白を挟み、しかも別の街で再会する確率など、一体どれほどだろう。考えるだけで胃が痛くなった。

その夜は一睡もできなかった。
眠りに落ちかけると、廊下から「おーい〇〇さん」と声が聞こえる気がして、飛び起きた。

さらに三ヶ月後、和歌山に旅行に行った。友人と「たま駅長」を見に行こうと、のんびりした気分で貴志駅に降り立った。
駅は観光客で賑わい、笑い声やカメラのシャッター音が飛び交っていた。ふと人の群れを見渡した瞬間、視線が凍りついた。
Aがいたのだ。群衆の中に自然に紛れ、こちらに向かって手を振っていた。

「こんなところで会うなんて!」

またしてもフレンドリーに近づいてくる。私は背筋を凍らせ、返事もせずタクシーを拾って逃げ出した。
逃げながら、心臓が喉を突き破りそうに打っていた。これはもう偶然ではない、と確信した。

数日後、私はとうとう彼のことを調べ始めた。
当時の住所を辿り、古い友人の伝手を使い、近所の人にも話を聞いた。奇妙な熱にうなされるように、どうしても知りたかった。
そして耳にしたのは、信じられない事実だった。

Aは七年前に死んでいた。
直接身内から聞いたわけではなかったが、近所の人ははっきりそう言った。度重なる自殺未遂の末に、とうとう本当に命を絶ったのだろうと。
引っ越し先でも奇異な行動が多く、住民の記憶に強烈に残っていたという。私はその証言をメモに取りながら、手が震えていた。
ならば、私が梅田で、東京で、和歌山で見たAは何だったのか。

さらに奇怪な出来事が起きた。
四月、友人と台湾旅行に出かけた帰り、飛行機の中で四度目の遭遇を果たしてしまったのだ。
機内の通路を歩いていたとき、前方からあの声が響いた。

「おーい〇〇さん!」

息が詰まった。そこに座っていたのは確かにAだった。
笑顔で手を振り、まるで生きている人間そのものだった。
私は逃げるように席に戻り、震えながら友人にすべてを話した。
「面白そうだから調べよう」と、友人は軽く言った。その言葉で、私はさらに深くAの痕跡を追うことになった。

だがどれほど調べても、分かるのは「七年前に死んでいる」という一点だけだった。
なぜ彼が私の前に現れるのか、なぜ私だけが呼ばれるのか。答えはついに得られなかった。

ただ一つ確かなのは、あの声は今も私の耳の奥に残っているということだ。
夜道を歩くとき、駅の雑踏に紛れるとき、ふいに背後から響いてくる。
「おーい〇〇さん!」
振り返る勇気は、もうない。

[出典:521 :本当にあった怖い名無し:2009/04/02(木) 12:27:51 ID:t9m6v3r+O]

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