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三十枚の古銭 r+2,238

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職場の後輩から聞いた話だ。

中学二年の夏、彼――Kとでもしておこう――には、Cという友人がいた。世間で言う悪友というやつで、成績は中の下、服装はだらしなく、けれど妙に気が合っていたという。二人とも怖い話が好きで、特に廃墟や心霊スポットの類には目がなかった。

ある晩、未提出の課題を片づけるため、二人は学校に残っていた。夜の校舎は静まり返っていて、時計の針が進む音すら耳に障る。課題がほとんど終わった頃、Cが「肝試しでもやるか」と言い出した。時間は二十三時を回っていた。面倒だが、Kも断らなかった。そうそう夜の学校に来る機会はない。ふざけ半分だった。

行き先に選んだのは、今は使われていない地下の家庭科室。理由は、ただ不気味だから。それだけだ。だが実際には、家庭科室の奥には宿直室が繋がっており、そこも十年以上使われていない。

地上の扉には鍵がかかっていたため、二人は中庭を通って、割れた窓から侵入した。入った瞬間、湿気と埃が鼻をついた。蛍光灯の残光がぼんやりと照らす部屋には、畳の腐った臭いと、誰かの気配のようなものが漂っていた。

宿直室は荒れ果てていた。押入れのふすまは外れ、洗面台の蛇口をひねると赤錆混じりの水が垂れた。はしゃぎながら部屋の様子を撮影した後、Cが言う。「あっちにも部屋あるっぽいな」

隣の部屋のスイッチを探り当てると、蛍光灯がちらつきながら点いた。ソファーの上に、異様なものがあった。紐で通された三十枚ほどの古銭。見るからに時代がかった造りで、誰がどうしてここに置いたのか、見当もつかない。

「やばくね?」と笑い合いながらも、そのまま家庭科室へと進んだ。暗闇の中、携帯のライトで部屋を照らす。だが次の瞬間、画面がガタガタと揺れ始めた。揺れているのは端末ではない。画面内だけが、地震でも起きたように揺れていた。そして、中央に白く霞んだ影が浮かび上がっていた。

「なんだよ、これ……」と呟くKの耳に、Cの叫びが響く。「逃げろ!」

二人は窓から飛び出し、校舎を駆け抜けた。教室に戻ってからも、心臓の音は収まらなかった。だがCがポケットから何かを取り出した瞬間、冷えた空気がさらに冷たくなった。

紐で通された古銭。それをCは、持ち帰っていた。

怒鳴り合った末、とりあえず映像を確認することにした。問題があったのは、やはり家庭科室だった。撮影中はただの白いモヤのように見えたそれは、映像の中で徐々に人の形を取り戻していた。そして完全に姿を現す直前、Cの叫びで映像は終わっていた。

数日後、Cがその古銭を見てもらったという男――寺の坊主ではなかったらしい――の話を聞かされた。

曰く、あれは幽霊などではない。「執着心」の塊だと。金に取り憑かれた人間の思念が、死後も古銭に染みついていたらしい。それは姿を持たないが、何かのきっかけで再び形を得ようとするという。

誰も触れなければ、思念は眠っていた。だが、Cが持ち帰ったことで目を覚まし、そして……携帯のレンズを通して顕現しようとした。

しかもそれは、「中の下」のレベルの執着だったという。つまり、まだマシなほうだったと。

その男――Sという人物――によると、霊というものは感情の残滓であり、強ければ強いほど、姿形を持ち始める。感情が高じて自我を持ち、物理に干渉し始める時、それは幽霊ではなく、怪異と呼ぶべきものになると。

映像にだけ映る理由も語られた。感情は物に宿る。カメラはそれを、物として受け取りやすいのだという。だが、映った感情は映像の中で変化する。だからこそ、写真に写った顔が消えたり、体が現れたりするという。

あの夜の家庭科室で起きた出来事は、全て「誰かの金に対する執着」が、眠りから覚めようとしていた瞬間だった。

古銭は供養され、映像は消された。以後、KもCもその地下には近づいていない。

ただ、Kが言うには――「Sと知り合ってから、他にも色々あったっすよ」――とのことだった。

それはまた、別の話だ。

[出典:590 :本当にあった怖い名無し:2014/03/24(月) 22:16:58.28 ID:QLSlnmX20.net]

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