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夕暮れ時の竹林【ゆっくり朗読】1400

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エジソンの竹で有名な京都市の遠縁の家に遊びにいったんです。

わたしが「まるで市松人形みたい」と言われていた頃の話。(褒められてないので、当然のごとくキレました)

仮に『Fさん邸』と呼ばせてください。

Fさん邸はいわゆる洋館で、ずっと団地暮らしだったわたしにはお城のように見えました。

ソファーセットや、バルコニー(都市伝説だと思っていた。ベランダではない)にはきれいなテーブルセットもあって、とにかくおしゃれなお家でした。

竹が有名なところなので、二階のバルコニーからは初夏の陽射しを浴びた竹林が見え、洋館に竹林はミスマッチだけどすごい、と大はしゃぎでした。

最初は初対面の親戚なので遠慮がちにしていました。

お子さまなのでだんだん大人の話にも飽きてきます。

あー、どこか遊びに行きたいなぁ、と思ってふと扉を見ると、わたしと同じくらいの男の子が覗いているのが見えました。

このお家の子かな?じゃあ、案内してもらえるかも!

そう思ったわたしは、母に「お家を探検してもいい?」と聞くと、Fさんが快く「好きに見てかまわないわよ、遊んでいらっしゃい」と優しく許可してくれました。

母の許可も出たので、「夕飯まではFさん邸から出ない」と言う約束で探検することになりました。

わたしが兄と一緒にさっき見た男の子に話しかけると、案内してくれると言います。

男の子の案内でいろんなお部屋に行きました。

「ここはベランダからいけるんだ」

「ここは鍵がかかってるけど、ここから入れるんだよ」

「この部屋にはベッドがあるよ」

と、男の子はいろいろ案内してくれます。

はじめて見た豪華なベッドに座って、絵本のお姫さま気分を味わったり、オルガンを見せてもらったり、いろいろ遊びました。

兄はベッドでトランポリンごっこをしてました。

外が薄暗くなってきた頃、男の子がしきりに外を指さして、「ねえ、今度はあそこで探検しよう!」と言うのです。

でも母と約束したし、昼間に見た竹林はなんだか恐ろしげで、さすがにとまどいました。

「じゃあ、お母さんがいいって言ったらね」と聞きに行こうとすると、なぜか男の子が嫌がります。

仕方がないので、暗い階段(スイッチの場所がわからなかった)を下り、Fさん邸のリビングにいきました。

「あら、二階にいたのね。探してたのよ」とFさんに言われ、母にも「これから一緒にお夕飯食べに行きましょうって。せっかくだから一緒に行きましょう」と言われ、優しいFさんとのごはんに釣られて、すっかり男の子のことは頭から吹っ飛びました。

ところが。

ごはんを食べにいく車に、さっきの男の子がいません。

ふしぎに思って、「ねえ、おかあさん。Fさんのおうちには男の子いる?」と聞くと、母はごく普通に「息子さん?いるわよ?」と言います。

小さいわたしはここですっかり安心して、じゃあ、あの子は今日はお外でごはん食べないことにしたんだ、と納得していました。

それから数年後。

またFさん邸に遊びにいくことになりました。

その時にわかったのですが、Fさんはわたしの大叔母で、わたしが最初にお邪魔した時、息子さんは成人して働きに出ていたこと。

つまり、わたしと同い年くらいの子供はいなかったんです。

遊びにいった理由もあとから聞きました。

「家がどうしても暗い、重苦しい感じだから、お祓いをしてもらおうと思ったの。
でもみんなが、そんなお金をお祓いにかけるんだったら指輪でも買えばいいのに、と言うから、Mちゃん(母)に来てもらおうと思ったの」

そうした事に詳しい母に相談しようと思ったようです。

そういうワケあり訪問だったのです。

母いわく、2回目はまるで別の家のように明るい雰囲気だったと。

わたし自身は2回目の訪問のことは覚えていないのですが、息子さんの部屋のベッドの下にある木琴がほしい、とだだをこねたようです。

Fさんは「息子ももう大きくなったし、ぜひ遊んでちょうだい」と譲ってくださいましたが、母には「おうち勝手にゴソゴソして!」と怒られました。

ベッドの下にあることは、あの男の子に聞いて知っていました。

今でも時々思い出します。

兄にも見えなかったあの男の子のこと。

手招きされた夕暮れ時の竹林。

あの男の子はどこへ連れて行きたかったのか。

今でもあそこにいるのか。

Fさんはその後お屋敷(わたしの中では家ってスケールじゃなかった)を手放し、もっと利便性のいいところに引っ越しされて、和やかな老後を過ごしておられます。

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