俺は来年、二十歳になる。
これまで平穏に生きてこられたのが奇跡だと思う。そう考える理由は、この話を聞いてもらえれば分かるはずだ。
これは俺がまだ幼かった頃、夏祭りで出会った「得体の知れない店」と、そこで手に入れたものにまつわる話だ。
今も、その呪いは終わっていない。
小学校に上がる前の夏、俺は両親に連れられて、地元の夏祭りに行った。
賑やかな屋台、焼きそばや綿あめ、金魚すくいに仮面ライダーのお面――子どもにとって夢のような空間だった。
両親から「好きなものを買ってきていい」と500円玉を渡され、俺は一人で人混みを歩いた。
その時、不思議な店を見つけた。
路地裏の暗がりにひっそり佇む、普通の屋台とは一線を画す雰囲気の店。
並べられていたのは、どれも奇妙な品々だった。
不気味な人形、怪しげなキーホルダー、そして人間の顔が歪んだようなデザインのお面。
子ども心に「ここは普通じゃない」と思ったが、それと同時に、強烈に引き寄せられた。
「坊主、何か欲しいのか?」
店の主人は目つきの鋭い、どこか悪意を帯びた笑顔の男だった。
俺は500円玉を握りしめながら、目に止まった奇妙なお面を指差した。
「これ、いくら?」
「坊主、イイ目してんな。それなら特別だ。500円でええよ」
おじさんはそう言って、おまけに十字架型のペンダントを差し出した。
「このペンダントは絶対に手放すなよ」
そう念を押されて、俺は深く考えずにそれらを受け取った。
その時、店主の口元に浮かんだ微笑が、どこかゾッとするほど印象的だった。
あれから月日が流れた。
お面とペンダントはずっと俺の部屋にあったが、小学校高学年の頃に異変が起きた。
友達が遊びに来て、部屋を見回していると、飾られたお面を指差して言った。
「なんかこれ、ユウタの顔に似てない?」
確かに、どことなく俺に似てきている気がした。
しかし気のせいだろうと思い、お面を押入れにしまい込んだ。
数年後、中学に上がった俺の家に、久しぶりに父方の伯母が訪ねてきた。
伯母は銀座で占い師をしている、霊感の強い人だと聞いていた。
彼女は俺の部屋に入るなり、いきなり押入れを開けてお面とペンダントを見つけ出した。
「これ、どこで手に入れたの?」
伯母は青ざめた顔で俺に問い詰めた。
「……小学校に上がる前のお祭りで」
それを聞くと、伯母は真剣な顔で言った。
「このお面、人間の皮でできているわ。それも生きたまま剥がされたもの」
俺は全身が震えた。
さらに伯母は、ペンダントについてこう告げた。
「これは悪い気を吸い取って溜め込むもの。お面の呪いから君を守っているんだろうけど、いずれ壊れるわ。その時、溜め込んだ不幸が一気に解放される」
伯母はお面とペンダントを持ち帰り、師匠の霊能者に相談することになった。
だが数日後、伯母は首を吊って亡くなり、ペンダントは真っ二つに割れていたという。
さらに、霊能者も原因不明の火災で焼死した。
その後、俺の元に呪われたお面だけが戻ってきた。
押入れの奥に隠しているが、時々確認するたびに、お面の表情が変わっているのが分かる。
今では完全に俺の顔そのものになっていた。
そしてペンダントが無くなってから、家族の平穏がどこか不安定に思える。
母が足をくじき、妹がモデルのバイトでトラブルに遭ったり、些細な不運が増え始めた。
俺には分かる。
ペンダントが壊れて、お面の呪いを直接受けるようになったのだろう。
来年、俺は二十歳になる。
なぜか「その日」が俺にとって特別な意味を持つ気がしてならない。
お面の呪いは、きっと俺を待っている。
ペンダントが守り続けてくれた日々が終わり、呪いが牙を剥く日が来るのだろう。
もし、その後も無事でいられたら、この続きを話そうと思う。
ただし、それが可能であれば、の話だ――。
(了)