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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

空白はいつも隣にいる nw+449-0116

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あの男から話を聞いたのは、深夜の喫茶店だった。

照明は弱く、空調の効きが悪いのか、店内には湿った空気が溜まっていた。

彼はグラスの縁を指でなぞりながら、思い出すように、途切れ途切れに語り始めた。顔色は悪く、目の奥だけが妙に冴えていた。

「俺には、時々、記憶が抜け落ちる時間があるんです」

気づけば数時間が経っている。その間の出来事は、まるで最初から存在しなかったかのように思い出せない。
疲れている時に多い。仕事が立て込んでいる時期に限って起きる。だから最初は、ただの疲労だと思っていたという。現実から一時的に切断される、都合のいい空白だと。

運転中や仕事中には起きない。それも安心材料だった。

だが、その空白は、ある日を境に性質を変えた。

二ヶ月ほど前の休日。
ゲームセンターに行こうと家を出たところまでは覚えている。次に意識が戻った時、彼は駅前の喫茶店で、冷え切ったコーヒーを口にしていた。
時計を見ると、三時間以上が消えていた。

翌日、同僚の女性に声をかけられた。

「昨日のお昼、駅前にいたでしょ」

一瞬、心臓が強く打った。

「一緒にいた人、すごく印象的だった」

長身で、黒い長髪。中性的な雰囲気の男。
二人は楽しそうに昔話をしていたという。子どもの頃の遊び、近所の川、懐かしい駄菓子屋の話。
彼女は細部まで具体的に語った。

彼には、心当たりがなかった。
話されていた思い出も、どれひとつとして自分の記憶に存在しない。

数週間後、似た話を、別の人間から聞いた。
大学時代の友人だ。

「この前、駅前で見たぞ。お前、誰かと一緒だったろ」

同じ背格好。同じ髪型。
別人が同じ嘘をつくとは思えなかった。

「俺は、その男の顔を見たことがないんです」

彼はそう言って、乾いた息を吐いた。
アルバムを確認しても、名前を挙げても、該当する人物はいなかった。
それでも、その男は存在していた。
彼のいない時間に、必ず隣にいた。

そして一週間後。
また記憶が途切れた。

気づいた時、彼はビルの屋上に立っていた。
夜風が強く、コンクリートの床は冷たかった。
足元に、錆びた手すりが横たわっていた。根元から外れたものらしい。

隣に、男がいた。

長身で、黒いロングヘア。
こちらを見ず、遠くの街明かりを眺めていた。

「どうして、お前は……」

男はそこまで言って黙った。
その目は暗く、何も映していなかった。

次の瞬間、強い風が吹いた。
彼はよろめき、咄嗟に何かを掴んだ。
金属の冷たさと、錆の臭いだけが残った。

再び目を覚ました時、彼は自宅のベッドにいた。
身体に外傷はない。ただ、掌に赤茶色の汚れがこびりついていた。洗っても、しばらく落ちなかった。

それ以降、記憶が途切れることはなくなった。

代わりに、身近で不審な死が起きた。

近所の老人が、ベランダから転落した。
数日後、通勤路の踏切で、事故があった。

彼は、それらのニュースを、ただ眺めていた。
胸の奥に、言葉にできない重さを抱えたまま。

話を終えた彼は、グラスを静かに置いた。

「最近、鏡を見るのが怖いんです」

理由は言わなかった。
私は答えず、会計を済ませて席を立った。

店を出る時、ガラスに映った自分の姿が、一瞬だけ遅れて動いたような気がした。

[出典:13 :あなたのうしろに名無しさんが……:03/05/21 20:56]

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