妊娠中期──身体と心がともに脆くなるその時期、「何か役立つことがしたい」「人生設計のヒントがほしい」と思うのは自然かもしれない。そんな不安に友人がつけこんだ。「自己啓発セミナー、行ってみない?」と。
案内されたのは、都心の雑居ビル。一歩入ると静寂と整理された空気が支配し、薄暗い小部屋でまずビデオを見るように促された。テーマは「家庭」「人生の軸」「人間関係」──どれもまともな内容。でも、画面から伝わってくる熱量、その後の感想文の提出、不自然に丁寧なフォロー。どうにも肌に合わない。
ビデオ終了後、用紙にびっしり感想を書かされると、担当の女性が紅茶とクッキーを運んできた。おや、飲み物やお菓子まで用意されるの?その後、「今日の話、どう感じた?」とじっくり話を聞いてくれる。その親切さは、だんだん“親しさ”に昇華していった。
何度か通ううちに、彼女は必ず伴ってきて、「次はいつにしましょう?」と予定を決める。彼女によると、すべてボランティアで、茶菓代も自費とのこと。でもある日、こんな発言が飛び出した。
「今日はケンタッキーを買ってきたんです」
(ビルにケンタッキーがある)
無料セミナー、茶菓、感想文カウンセリング、そしてケンタッキーまで…何かがおかしすぎる。誰がこの費用を?何の目的で?疑問は膨らむばかりだった。
だが、内容の真正性──「家庭を大切に」「生きがいを見つける」──自分自身もそう思う。でも、それと宗教勧誘は別問題だ。そんな矛盾を抱えつつ、気づけばすべてのビデオを観終えていた。
真相:統一教会との出会い
ビデオ最終回の後、友人と担当者とで過ごすお茶会の席で、ついに告白された。
「私たち、統一教会なんです」
その瞬間、胸の違和感が一気に氷解した。紅茶もケンタッキーも、用意周到な導線だったのだ。布教のために整えられた環境の中、自分が少しずつ深みに嵌っていた──そう思い知った。
わたしは平静を装いながら言葉にした。
「あなたたちが話していること、正しいかもしれない。でも私は信者にはなれない。だって、私が信じられるのは自分だけだから」
驚くべきことに、彼女たちはむしろ喜んだ。否定されなかったことで、「これはいける」と思ったのだろう。「否定しない人って珍しいんですよ」と担当者が言った。
背景:統一教会とは
統一教会は、1954年に韓国の文鮮明(ムン・ソンミョン)によって創始され、大規模な合同結婚式や反共主義、政治への影響力で知られてきた。1960年代に日本へ進出し、1964年には宗教法人として政権与党と接点を持ち、特に反共連盟や政治家との結びつきを強めた 。
だが、その布教活動の裏には「霊感商法」という名の過剰勧誘があり、「先祖の因縁」や「霊的な苦しみ」を持ち出して高額商品を売りつける手法が見られた。高麗人参、壺、印鑑、浄水器…。中でも日本人信者の家族からは数十万円~数百万円もの献金が強要された報告が相次ぎ、1980年代以来、被害者と呼ばれる人々が法的補償を求め続けてきた。
最終的に、2023年には政府が宗教法人の解散命令を東京地裁に請求し、2025年3月にはその命令が正式に下された。被害総額は約204億円とも。
わたしが体験した「霊感商法」の一部始終
セミナーに誘われた当初、霊感商法だとは知らなかった。だが、知らずに参加していた頃から、すでに商品の販売は始まっていた。
- 高麗人参:購入金額は数万円。味は正直まずかったが、健康によいらしいので使い切った。
- 浄水器:自分でも欲しいと思っていたし、相場と変わらない価格だったため購入。
- ジュエリー展示会:見学のみ。何も買わなかったが、勧誘トークは繰り返された。
つまり、販売と勧誘は露骨でなく、普通の商品買い物と同じ感覚で知らずに巻き込まれやすい構造だった。
安倍元首相襲撃後の影響
2022年7月8日──安倍晋三元首相が暗殺された。その直後、統一教会との関係が原因の一つであると報じられた。暗殺者山上徹也氏は、母が統一教会に寄付し家庭が崩壊したと語っている。
この事件を契機に世論が動き、政府は教会の宗教法人解散を検討、ついには実行に移した。政治と宗教の癒着が明るみに出て、政治倫理や信仰の自由についても、広く議論が巻き起こった 。
わたしも、あの日に友人からのSMSをもらっていた。
「久しぶり。電話取れなくてごめんね」
返事をしたいのに、安倍元首相の死を受けてSNSは騒然。あの人と、また日常会話に戻るには何かが違っている―そんな気持ちになり、結局返せなかった。
自分自身を支えたもの――「信じる」の定義
最後に思うのは、何を信じるのか、それを誰が決めるのか、ということだ。わたしは、自分しか信じられない。団体や他人ではない。仮に内容が正しくとも、「信じる」過程と「誰が信じさせたか」は別物だから。
統一教会は確かに、家庭や信仰という普遍的テーマに触れ、人の心を惹きつける力があった。しかしその裏には、政治、宗教法人制度、霊感商法、嫁がせ、合同結婚式――あらゆる「仕組み」が張り巡らされていた。
そしてそのすべてが、当時の「わたし」に届いていた。自らの意思で選び、信じ、断る勇気を持てたのが、せめてもの救いだったのではないか──と思う。
本作は、下記コンテンツに寄せられた貴重な体験談のコメントを参考にさせていただきました。
2022年09月14日 23:15 (編集)
アタシは 統一教会のセミナーを最後まで受けました。
最初は 当時流行っていた 自己啓発のセミナーだと友達に誘われて参加。第1子妊娠中でした。
個別に仕切りのある場所で ビデオを見てその後 ビデオについての感想文みたいなのを書く。
アタシの担当って人がいて アタシが参加する時には必ずその人が来て 感想文の後に世間話みたいな事をして次に参加できる日を予約。
セミナー自体は無料でしたが世間話する時には 必ず飲み物とクッキーとかが提供されて 担当の人もボランティア?みたいな無償でしていると。
ビデオの内容は 家庭を大切にとかそんな感じの内容で自己啓発セミナーだと思って参加していたアタシはまぁ 正しい事言うてるよね。みたいな事を思っていました。
アタシ以外の人も何人も同じ時間に ビデオ見ていて他の人にも担当がいて無償でやってるって
資金源は何?でしょ。紅茶代どこから出てるの?
さらに 時々ですが担当の人が「今日はケンタッキー食べようと思って」
とかって(そのセミナー施設のビルにケンタッキーの店舗があった)
もちろんそれも担当の人のおごりです。
絶対おかしい。と思ってました。
そして アタシは無事?(笑)彼女たちの思うラストまでビデオを見たわけですよ。
ちょうど 桜田淳子が合同結婚式をした直後でした。
誘ってきた友達とアタシの担当の人と3人で 食事だったかお茶だったか設定されて そこで実は統一教会だと言われました。色々おかしいと思っていたけど 聞いた時に納得。って思いました。
アタシは ビデオで見た(学んだ?)事に対して間違えていない事を言っているのはわかるから否定はしないけど 自分は信者になれない。何故なら自分しか信じられないから。みたいな事を言ったと思う。
信者の2人からしたら 合同結婚式で世間が沸いているのに否定しなかったアタシに対して 引かれるかと思った。って 言ってました。これは なんとかなると思ったんでしょうね(苦笑
統一教会だったと カミングアウトしてからは色々な彼女たちのいうところの真理をを言うてきました。まぁ アタシは何を言われても 自分しか信じてないので(笑)霊感商法については まだ統一教会と知らなかった時からありましたね。
ただ TVとかで見るような高い壺とか印鑑とかそんなのでなくて高麗人参だったり浄水器でした。
浄水器は 個人的な理由で欲しいなと思っていたし他の浄水器と比べて同じくらいの値段だったので
購入しました。高麗人参はいくらだったか覚えていないけど何万もした。
身体にいいのは判るので購入しました。
まずいけど お茶にしたりして使い切りました。
それ以外 ジュエリー系の展示即売とかに行ったりはしましたが欲しいものはなかったので購入していません。最終的に 友達はアタシを教会に誘ったりしなくなりました。
お互い子育てや色々で ずっと連絡もしていなかったですが安倍元首相の事件の前に 久しぶりに電話したのですが久しぶり。電話取れなくてごめんね。ってSMSが来ました。
また連絡するね。って返したけどその直後に 阿部元首相の事があって連絡しづらくまだしてません。
通りすがりなのに 長々失礼しました。