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またその顔で rw+2,717-0315

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数年に一度、決まって現れる人たちがいる。

爺さんのときもあれば、婆さんのときもある。作業着のおっさんだったことも、喪服のおばさんだったこともあった。全員、別人だ。顔も声も、着ているものも、暮らしぶりも違う。

ただ、ひとつだけ共通していた。

そいつらはみんな、俺を見た瞬間、懐かしいものでも見つけたみたいな顔をして、まっすぐ近づいてくる。

「久しぶりだな、友よ」
「先生、やっと会えた」
「まだその歩き方をするんだね」

からかいではない。酔ってもいない。目を逸らさず、本気でそう言う。

最初は、頭のおかしい人間に絡まれただけだと思っていた。だが数年に一度、忘れたころにまた違う誰かが現れる。しかも全員、俺の親と同じくらいか、それより上に見える年齢だった。若い人間は一人もいなかった。

その違和感だけが、ずっと胸の底に沈んでいた。

決定的だったのは、今朝だ。

電車を降りて改札へ向かっていたとき、前からスーツ姿の男が走ってきた。五十代の前半くらい。髪も靴もきっちり整った、仕事のできそうな男だった。

そいつは人混みの真ん中で俺を見つけると、顔をぐしゃりと歪めて叫んだ。

「お父さん!」

そのまま抱きつかれた。

全身の血が引いた。反射で突き飛ばそうとしたが、男の腕は異様に強く、俺の肩を掴んで離さなかった。

「違う、人違いだ」

そう言っても、男は首を振った。

「またですか」
「何の話だ」
「その顔で、知らないふりをするのはやめてください」

その声音は泣きそうでもあり、怒っているようでもあった。周囲がざわつき、駅員が飛んできて、俺たちは事務室に連れていかれた。

狭い部屋で向かい合って座らされても、男は一度も俺から目を逸らさなかった。

俺は「知らない人です」と繰り返した。男は静かに息を整え、それから言った。

「父は二十年以上前に亡くなりました。でも、死ぬ前に言っていたんです。次はもっと若い顔で戻るから、すぐには信じるなと」
「……は?」
「みんな最初はそうでした。友人も、弟子も、家族も。会うたびに、忘れたふりをされた」

駅員が困りきった顔で「人違いでしょう」と割って入ったが、男は俺だけを見たまま続けた。

「忘れるのが早くなっていますね」
「やめろ」
「でも、癖は同じだ」

そう言われた瞬間、自分でも無意識だった動きに気づいた。俺はさっきからずっと、左の袖口を親指で擦っていた。子供のころからの癖だ。緊張すると出る。誰にも指摘されたことはない。家族ですら、たぶん気づいていない。

男はそれを見て、ひどく疲れた顔で笑った。

「前も、そうしていました」

それ以上は聞きたくなかった。駅員が半ば追い出すように男を外へ出し、俺も解放された。

別れ際、男は名刺を差し出した。

「思い出したくなったら、連絡してください」

受け取らないつもりだったのに、なぜか俺の手は先に伸びていた。

帰宅してから、捨てる前に一応確認した。その会社のサイトを開くと、役員一覧に男の写真が載っていた。名前も、肩書きも、今朝の名刺と同じだった。

画面を閉じても、気分は悪くなるばかりだった。

頭のおかしい人間ではない。
だから安心できるわけでもない。

むしろ逆だった。

これまで俺に声をかけてきた連中の顔が、ひとりずつ浮かぶ。友と呼んだ老人。先生と呼んだ老婆。何も言わず、俺の袖口だけを見て、泣きそうな顔で去っていった女。

あれは全部、同じものを見ていたのかもしれない。

考えるのをやめたくて、名刺を机の引き出しの奥に押し込んだ。二度と見ないつもりだった。

夜、風呂から上がって部屋に戻ると、机の上にスマホが置いてあった。

見慣れない画面が開いていた。

発信画面だった。
番号はすでに入力されていた。
名刺に書かれていた番号と、ひとつも違わなかった。

通話ボタンのすぐ上で、指が止まったような跡が画面に残っていた。薄い水滴までついている。俺の髪から落ちたものとしか思えない。

引き出しは半分だけ開いていた。

その奥にしまったはずの名刺はなく、代わりに一枚のメモが入っていた。今まで見たことのない紙だった。けれど、書かれている字だけは見覚えがあった。

癖のある払い方。
曲がり切らない「思」の字。
昔から、俺が書く字にそっくりだった。

たった一行だけ、こう書いてあった。

《今度こそ、先に名乗ること。》

[出典:109 :本当にあった怖い名無し:2018/01/12(金) 20:53:13.64 ID:pzaqLlEa0.net]

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