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短編 r+ 怪談 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

ナンパした女 r+8813

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俺の先輩の話だ。

週末の夜、駅前で声をかけるのが半ば日課のようになっていた先輩。その日も、比較的すぐに「当たり」を引いたらしい。小柄で、笑うと目がなくなる、いかにも人懐っこそうな子だったという。

当たり障りのない会話で場を繋ぎ、いつものようにドライブに誘い出す。最初は楽しそうに話していた彼女が、ふと「ねえ、もっと静かなところに行かない?」と言い出した。街の喧騒から離れたい、と。少し妙だなとは思ったが、まあ、そういう展開はむしろ好都合か、と先輩は内心ほくそ笑み、彼女の希望通りに車を走らせた。

行き先は、先輩が「とっておき」と呼んでいた場所。夜になればまず人の寄り付かない、だだっ広いだけの駐車場だった。エンジンを切り、静寂が車内を包む。さてこれから、というタイミングで他愛ない会話を続けていると、何の前触れもなく、それは起こった。

助手席の彼女が、豹変した。

振り向きざま、その細い指が、まるで精密機械のように先輩の両眼を正確に捉えた。咄嗟に顔を背けようとしたが間に合わない。激痛。視界がぐにゃりと歪み、熱いものが頬を伝う感覚。何が起きたのか理解する前に、ビニール紐のようなものが首に巻き付いていた。

「ぐっ…!」

息が詰まる。凄まじい力で締め上げられる。小柄な彼女のどこに、こんな力が潜んでいるのか。負傷していることを差し引いても、常軌を逸した膂力だった。先輩は必死に抵抗する。もがきながら手探りで掴んだのは、いつも腰につけているキーケース。指先に硬い感触。鍵だ。それを握りしめ、力の限り、彼女の脇腹あたりに突き立てた。

「ギッ…!」

獣のような短い呻き声が聞こえ、首にかかる力が一瞬緩む。その隙を逃さず、先輩は女を突き飛ばし、ドアを開けて車外に転がり出た。

後ろを振り返る余裕などなかった。ただ、走った。痛みと恐怖で全身が痺れる中、一番近くにあった俺の部屋のドアを叩いた。

「おい!開けてくれ!」

息も絶え絶えに転がり込んできた先輩の姿に、俺は言葉を失った。首には紐の跡が赤黒く腫れ上がり、右目の瞼はぱっくりと裂け、血が滲んでいた。震える声で語られた一部始終は、にわかには信じがたいものだった。

「警察とか、病院とか行った方が…」
俺がそう言うと、先輩は力なく首を振った。「状況が状況だ。ナンパして、人気のない場所に連れ込んで…。俺が疑われたらどうする」。確かに、そうかもしれない。しかし、車をあの場所に置きっぱなしにしておくわけにもいかない。

結局、共通の友人をもう一人呼び出し、そいつの車で三人、あの駐車場へ向かうことになった。先輩は助手席で、どこからか持ち出した金属バットを握りしめ、小刻みに震えていた。

駐車場に着くと、先輩の車は、ライトも消えたまま、ぽつんとそこにあった。恐る恐る近づき、車内を覗き込む。そこには、格闘の跡が生々しく残っていた。シートには数本の長い髪の毛。そして、ダッシュボードには乾きかけた血痕。先輩の話が、紛れもない事実だったことを物語っていた。

そして、先輩がさらに顔面蒼白になったのは、車内に置いていたはずの公共料金の払い込み票が、一枚残らず消えていたことだった。名前と住所が記載された、あの紙が。

その日から、先輩は自宅に帰れなくなった。
「引っ越し代が貯まるまで頼む」と言い、俺や友人の部屋を転々とする日々が続いた。

結局、あの女が先輩の前に現れることはなかった。
住所を知られたかもしれないという恐怖だけが、生々しく残り続けた。

俺がこれまでに聞いた中で、これが一番、肌にまとわりつくような、気味の悪い話だ。

[出典:188 本当にあった怖い名無し 2011/06/14(火) 16:30:15.83 ID:AJdfTkDm0]

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