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帰省:封印された記憶が目覚めるとき r+5695

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去年の夏、約十年ぶりに実家へ帰省したときのことを書こうと思う。

この体験には非常に複雑な感情と不安が絡み合っており、長文になるかもしれないので、興味のない方は読み飛ばしていただいて構わない。

私は現在、二十八歳。よく「二十歳を過ぎると霊体験はなくなる」と言われるが、これまで一度も霊的な経験はない。

これから語る内容も、厳密には霊的なものとは無関係かもしれない。しかし、それは私の人生の中で最も強烈に恐怖を感じさせた出来事であり、今でも時折、私の内面に不安の影を投げかける原因となっているのだ。

私の実家は新潟にあり、代々続く農家で、歴史ある古い家だ。本家は長男が継ぐことが原則であったが、私の父は三男でありながら本家を継いだ。その背景には、父の兄二人が知的な障害を抱えていたことがある。

長男である伯父は、会話をすることはできたが、精神的には幼少期から成長が止まったままで、時折奇妙な行動を取ることがあったという。

ある日、伯父が突然本家に現れ、「将棋をやろう」と私に声をかけてきた。私は当時小学校高学年で、特に深く考えることもなく伯父の誘いに応じた。

結果的に私は伯父にあっさりと勝ったのだが、それが伯父の感情を逆なでしてしまったらしい。彼の顔は真っ赤になり、目には怒りの光が宿っていた。彼は震える手で拳を握りしめると、突然家の前に向かい、ガソリンを撒き始めた。その行動は非常に乱暴で、周囲には異様な緊張感が漂った。そして、彼は火を放とうとしたのだ。父が慌てて駆けつけ、伯父を力尽くで止めたが、その一連の出来事は、幼かった私にとって強烈な恐怖として刻まれた。

次男である伯父は体も知能も弱く、幼少期に病に倒れ亡くなったと聞かされている。その際、曾祖父は「この子は本当に親孝行な子だった」と語ったそうだ。

こうした事情により、三男であった父が本家を継ぐこととなり、私は一人っ子として育てられた。将来、自分がこの家を継ぐべきなのかと考えたこともあったが、父からそのような期待を押し付けられたことは一度もなかった。祖父は私に本家を継がせたいという思いを抱いていたらしいが、彼の早逝後、家の将来について語られることはほとんどなかった。むしろ父は、私をできるだけ家から遠ざけたがっているように見えた。

中学を卒業した時点で、私は東京の高校へ進学することを強いられた。そこで寮生活を送り、高校、そして大学へと進学した。この間、一度も実家に帰ることはなく、必要な際には両親が東京に出向いてきた。大学卒業後、電機メーカーに就職し、気が付けば五年が過ぎていた。その間も帰省することはなかった。

私が帰省を決意したのは、二年間交際していた彼女が「そろそろ両親に会って挨拶をしたい」と言ったのがきっかけであった。私はすでに彼女の両親に会い、真剣な交際を認めてもらっており、結婚も視野に入れていた。この機会に彼女を実家に紹介しようと思い、帰省を決めたのだ。

父に電話で帰省の旨を伝えると、戸惑いを感じさせながらも「わかった」と承諾してくれた。盆休みが始まると同時に、私は彼女を連れて電車に乗り、実家に向かった。

電車の中で、彼女は実家がどのような場所にあるのか、家族のことについてなど、いくつもの質問をしてきた。それに答える中で、忘れかけていた実家での記憶が少しずつ蘇ってきた。しかし、それはどこか不快な感覚と共に戻ってきており、電車の揺れに同調して心の中でざわつきを引き起こした。

実家に到着すると、風景はほとんど変わらないままだった。しかし、家に近づくにつれて、懐かしさだけでなく、説明しがたい不安と重苦しさが胸にこみ上げてきた。心臓が高鳴り、体が本能的に拒絶しているように感じられた。その不安を、「久々の実家だからこその緊張だ」と自分に言い聞かせ、彼女の手を引いて足を速めた。

門に立つと、それまでの漠然とした恐怖が、急に具体的で現実的なものに変わった。家全体を包む空気はどこか異様で、父が迎えに出てきた時の顔も、私の記憶にある父とは違い、どんよりとしていた。家に足を踏み入れると、その重苦しさは一層増し、まるで深い井戸の底に引きずり込まれたような感覚に陥った。

幼い頃、普段は分家に住んでいた伯父が本家に来た日のことを思い出した。それは珍しいことだった。機嫌よさそうに「将棋をやろう」と誘われた私は、特に深く考えることもなくその提案に乗った。しかし、あっけなく勝利してしまい、私は無邪気に伯父をからかってしまった。それに激怒した伯父は、家の前にガソリンを撒いて火を放とうとし、父が駆けつけて彼を殴り止めたのだった。その一連の出来事は、私の記憶に深く刻まれ、心の中で根強い恐怖として残り続けている。

夕食の時間も、会話はほとんどなく、ただ食器の音が静かな空間に響いていた。誰も口を開くことなく、沈黙が重苦しさを増幅しているように感じられた。彼女は何かを強く感じ取っている様子で、しきりにこめかみを押さえ、周囲を警戒する姿が目立った。私自身も、家全体に漂う異様な空気に圧倒されていたため、彼女に無理に明るく振る舞うよう求めることはできなかった。

その夜、私たちは早々に布団に入った。彼女はすぐに寝入ったが、私は寝つくことができなかった。家全体に満ちている重苦しい空気が、次第に過去の断片的な記憶を呼び起こし、それが頭の中をちらついて離れなかった。

私は恐ろしい夢を見た。

その夢の中で、幼い頃の私の首を父が絞めており、その背後には祖父が立っていた。不思議なことに、私は恐怖を感じたが、苦しさは感じなかった。

翌朝、目を覚ますと、彼女は真っ青な顔で帰り支度をしていた。彼女は震える声で「帰る」と言い、私が残るなら一人でも帰ると訴えた。彼女の顔はこわばり、目には涙が浮かんでいた。震える手で荷物を握りしめながら、彼女の体全体が小刻みに震えているのがわかった。その目には明らかな恐怖と決意が浮かんでおり、その様子があまりにも真剣で、私もこれ以上この家にいることに耐えられないと感じた。彼女と一緒に帰ることにした。

父に帰る旨を告げると、父は深くため息をつき、「そうか、あのお嬢さんを連れて東京に戻りなさい」と言った。その言葉には何か暗示的な意味が含まれているように感じたが、私は深く考えずに家を後にした。

家から離れると、その重苦しい空気から解放されたかのように感じ、心が軽くなった。電車に乗ると、彼女は「ごめんなさい、何も説明できない」と謝罪し、涙をこらえていた。私も泣きたい気持ちになった。彼女が何を感じたのかは分からなかったが、私自身もあの家で何か不気味なものを感じていたため、彼女を責めることはできなかった。

私は一人っ子であるにもかかわらず、なぜ『勇二』という名前なのだろうという疑問が浮かんだ。幼い頃から何度も書いたり、口に出したりしてきたこの名前に対して、今になって初めて違和感を感じたのだ。その後、私と彼女の関係は自然と疎遠になっていった。あの家について彼女は何も語らず、私も尋ねることができなかった。幼い頃から何度も書いたり、口に出したりしてきたこの名前に対して、今になって初めて違和感を感じたのだ。彼女と会うたびに、あの時の恐怖と不安がよみがえり、お互いに言葉を選びすぎてしまうことが増えていった。

私の中でも、彼女に何があったのか尋ねるべきだという思いと、恐怖心からその話題を避けたいという葛藤が交錯していた。結局、その重荷を背負ったまま、私たちは次第に距離を置くようになったのだ。私自身、自分の家や生い立ちについて話すことが恐ろしく、どこか自分のルーツを直視することに抵抗を覚えていた。

ここまで読んでくれた方々に、深く感謝したい。

[出典:110 名前:あなたのうしろに名無しさんが…… 2001/05/17(木) 01:02]

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