これは、かつて地方の小さな町で育った男から聞いた話だ。
彼が小学生だった頃、その町には「子ども会」という集まりがあった。地域の子どもたちが集まり、区長の家を拠点に遊んだり、行事を行ったりする、ごくありふれた組織だった。
区長の家は、町でもひときわ敷地が広かった。母屋のほかに離れが二つあり、庭には手入れの行き届いていない古木が立ち並んでいた。そのうちの一つ、敷地の奥、塀沿いに建つ離れだけが異様だった。
二階建てで、外壁には窓らしい窓がない。入口の扉は分厚く、常に錠が掛かっている。子どもたちは自然とそれを「謎の家」と呼ぶようになった。
区長は「あれは物置だ」と言った。
だが、塀の外側にはエアコンの室外機が設置されており、夏になると低い駆動音が聞こえてきた。物置に空調が必要な理由を、誰も説明できなかった。
ある日、彼は一人で塀をよじ登り、建物の裏側を覗いた。
その時初めて、壁の高い位置に、掌ほどの小窓があることに気づいた。
中を覗こうと顔を近づけた瞬間、
向こう側から、誰かの「顔」がこちらを見ていた。
初老の男の顔だった。
見知らぬ人物だったが、こちらを見返す目には迷いがなく、まるで最初からそこに立っていたかのようだった。
彼は反射的に塀から飛び降り、そのまま家に帰った。
区長にその話をすると、「気のせいだ」と一言で切り捨てられた。
それ以上は、何も聞かせてもらえなかった。
数日後、彼は友人の主一と鉄男を誘い、夜中に再び区長の家へ忍び込んだ。
今思えば、あの時点で何かを選び間違えていたのだと思う。
小窓は、すでに開いていた。
彼と主一は中へ入り、鉄男は外で見張りをしていた。
室内は冷え切っており、一階から微かな灯りが漏れていた。
階段を降りる途中、ロッキングチェアが見えた。
誰も触れていないのに、ゆっくりと揺れていた。
そこに座っていたのは、人の形をしていた。
だが、顔が二つあった。

一つは目を閉じ、もう一つは虚ろな目で前を向いている。
その存在が、突然、喉を裂くような声を上げた。
「あ゛あ゛ーー!」
閉じていた顔が同時に目を開け、二つの顔が同じ声を発しながら、こちらへ近づいてきた。
彼は逃げた。
主一はその場に崩れ落ち、動けなくなった。
外で待っていた鉄男と共に区長の家へ駆け込むと、区長は怒鳴り声を上げ、何も聞かずに離れへ向かった。
ほどなく、主一は担ぎ出された。
生きてはいたが、目を覚まさず、口を開くこともなかった。
翌日、親たちは区長に呼び出され、誓約書を書かされた。
内容は「昨夜見聞きしたことを口外しない」というものだった。
後になって彼は気づいた。
誓約書の文面には、
「今回の件について」
という表現が使われていた。
まるで、初めてではないかのように。
それから間もなく、彼は町を離れた。
あの離れが撤去されたという話は聞いていない。
ただ一つ、今でも引っかかっていることがある。
あの夜、ロッキングチェアは、
彼らが部屋に入る前から揺れていた。
まるで、
誰かが来るのを知っていたかのように。
(了)
[出典:431: 本当にあった怖い名無し:2011/06/21(火) 01:00:04.66 ID:KCnZKBuw0]