短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

深夜の菊名駅【ゆっくり朗読】6993-0106

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人生で一番怖かったこと

東横沿線の菊名に住んでたとき、改札左の飲み屋で午前二時くらいまで女三人で飲んでいた。

徒歩二十分のところに家がある私以外はタクシーで帰ることになり駅の階段をのぼって反対のタクシー乗り場に2人を送りに行きました。

駅は歩道橋の様相で、タクシーの停まっている道路に向かって階段を降りていたら、前から小柄な男性がのぼってきました。

他に人もいず、私たちはすれ違ったのですが、友達をタクシーに乗せて、さて私も歩いて帰るかと、今来た階段を戻るためのぼりはじめると、階段の頂上で今さっきの男性が立ってこっちを見下ろしています。

『しまった……』

と思い、さも間違えたふりをして、私はまたきびすを返し、階段を降りはじめました。タクシーで帰ろうと思ったのです。

ですが田舎の深夜、菊名駅前のこと、今行ってしまったタクシー以外見当たらない。

その場で待つのも怖いので、とりあえず走って、すぐ近くの松屋に入ろうとしました。

ちらりと振り返ると、すぐうしろまで男性は近づいて来ていました。

走ると刺激するかも、と思ったので、早足で逃げようとしたとき、

「ねえねえ、遊びにいこうよ」と腕をつかまれました。

意外と若い声でした。外見は三十近かったと思います。

私はやべえな、と思いつつ腕をゆっくりふりほどき、「でももう帰るから」と答えました。

男性は私の目を見ず、私の頭の上に視線を定めたまま、「聞こえなかった? 遊びに行こうよって言ったんだよ」と言いました。

怖くて答えられませんでしたが、私が首を振ると、チッと舌打ちして、「じゃこれ見てよ、これだけ」と、ポケットから携帯電話を取り出して開け、私の目の前に突き出してきました。

「いや……、そんなこと、したくないから」と、とにかく松屋に逃げようとしていたのですが、

「聞こえなかった?聞こえてるよね?これ見ればいいんだよ、これ見てよ、見ようよ、見たらいいんだよ、見てよ、見て、み、み、みみみ」

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その間ずっと男性は私の頭上を見たまま、私と目を合わせません。

大声を出したいのですが、その瞬間男性がなにをするかとそれを思うとできなくて、携帯見ればいいのか、と『みみみみみみ』とくり返す男性の言うとおりにしてしまおうかと考えたとき、

「どうされました?」と、タクシー乗り場から声がしました。

タクシーの運転手さんでした。

その瞬間、男性は大きく体をふるわせて驚いて、持っていた携帯を取り落としました。

そのとき、思わず落ちた携帯の液晶画面を見てしまったのですが、そこには

『上を見て。あれなぁに?』

と、メール作成画面に書かれていました。

男性があわてまくって「かー、かかかかか」とつぶやきながら携帯を拾って逃げようとしたとき、走ってきた運転手さんが男性の腕をつかんで、

「ちょっと待ちなさい。今、警察に電話するから」と大声で言いました。

男性は思い切り運転手さんを蹴り、だぶだぶのズボンの後ろポケットから折りたたみナイフを一生懸命取り出そうとして、ひっかかっていました。

「おまえも、あなたも、上を、上を見ればいい!」

と言いながら、やっとナイフを取り出して両手でナイフを広げて、私に向かってゆっくり歩いてきました。

私はもう頭が真っ白になって、男性から目を離せなく凍り付いていたのですが、運転手さんが「やめなさいっ!」と言う間に、男性は「くそぉ、くそぉ」と言いながら、

「どうして上を見ないんだよ、上見ろよ、うえっ、うえっみっみ」

と、ナイフをまたポケットに入れづらそうにしまって、ゆっくり歩いて駅の階段をのぼっていってしまいました。

警察は呼びましたが、あとのことは知りません……

[出典:http://hobby7.2ch.net/test/read.cgi/occult/1125151026]

(了)

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