中編 集落・田舎の怖い話 定番・名作怖い話

忌箱(キバコ)【ゆっくり朗読】6981-0110

更新日:

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これは1996年、当時高校三年生の時の話。

145 :本当にあった怖い名無し:2009/07/20(月) 18:24:05 ID:Ygft2tbPVr

俺の住んでた地方は田舎で、遊び場がなかったんで近所の廃神社が遊び場というか、溜まり場になってたんだよね。

そこへはいつも多い時は七人、少ない時は三人くらいで集まって煙草を吸ったり酒飲んだり、たまにギター持って唄ったりしてた。

その廃神社は人がまったく来ないし、民家や商店がある場所からはけっこう離れていたから、高校生の俺達には、もってこいの溜まり場だった。

ある日学校が終わって、まあその日も自然と廃神社に溜るかぁみたいな流れで、俺と他の三人の計四人で自転車で廃神社に行ったんだ。

時間は四時過ぎくらい。そこで煙草吸ったりジュース飲んでたりしてた。

十一月頃で、ちょっと寒いなぁなんて言いながらくだらない話に花を咲かせて溜ってたんだよね。

そしたら、ザッザッザッザッって神社の入り口から足音が聞こえてきたんだ。

最初は他の連れが溜まりに来たのかなぁと思ってたんだけど、神社の境内に入ってきたのは、七十代位のおばあさんだった。俺を含めた四人とも会話がピタッと止まってね。

その廃神社に溜まり始めたのが高校一年の頃からで、約二年間溜まり場にしてたけど、これまで一度も人が来た事がなかったんでビックリしたというか、人が来る事自体が意外だったんだよね。

俺たちは神社内の端側にある段差のある場所に溜まってたんで、おばあさんは俺たちの存在に気づいてない。

俺や俺以外の連れも、なんとなくバレたらいけない気がしてたのか、みんな黙ったままジッとおばあさんを見てた。

おばあさんは神社の賽銭箱の前に立って拝んでた。

賽銭箱には落ち葉やゴミしかないのは二年前にリーサチ済み。

拝んでた時に聞き慣れない言葉で何かを呟いてた。

一分くらい拝んだあとに、賽銭箱の後ろのほうに、片手に持っていた鞄を置いて帰っていった。

「おぉビックリした!」

「まさか人が来るとは」

「ちょっと怖かった~」

とか話してたんだけど、当然気になるのは、おばあさんが放置した鞄。

俺はなんとなく嫌な予感がしてたんだけど、連れの小倉が賽銭箱のとこまで走って鞄を持ってきた。

「札束が入ってたりして」とか言ってるんだけど、俺はわざわざ神社に置き去ったものだからロクでもないモンなんだろうなぁと思って「そんなもんあそこに置いとけよぉ~」

とか言ったんだけど、他の三人は興味しんしん。

仕方なく小倉達が鞄を開けるのを見てた。

「なんだコレ」と言う山崎の手には古新聞。

相当古そうなのは新聞の黄ばみ方で分かったんだけど、記事はよく覚えてないけど『なんたら座礁』『なんたらが逮捕』みたいな文字が書いてあったのは覚えてる。

新聞の日付は1972年って書いてあった。

「なんで二十四年前の新聞が……」ってみんな不思議がってた。

三宮もちょっと気持ち悪くなったのか「やめとくか?」と言い始めたんだけど、小倉と山崎は更にガサゴソと鞄を物色しはじめた。

今度は財布。小倉は「おぉ金入ってたら丸々ストアで酒買って宴会するか」と言いながら財布を開けた。

外国の札のような、昔のお札じゃない見た事もない札が一枚と、お守りとレシートと紙切れが入ってた。

小倉と山崎はすぐに興味なくして「なんだよお、金入ってねぇよ」と言ったんだけど、俺は中身に興味があったんで、三宮と一緒に見てみた。

お札はたぶん中国か韓国の、かなり昔の札。

レシートはボロボロでよく読めない。

お守りには梵字みたいな、たぶん梵字ではないけど、中国語か韓国語で書かれたお守りかなぁって感じの物。

俺と三宮が財布をくまなく調べてると、小倉が中から小さな木製の箱を取り出した。

「なんだよコレ!お宝っぽくないか!?」と言って小倉は開けようとするんだけど開かない。

俺は「やめとけよ。どうせロクなもん入ってないって」って止めて、三宮も「気持ち悪くなってきた……」って言うのに、小倉と山崎は必死に開けようとしてる。

最初はコイツら馬鹿だなぁ、って思ってたんだけど、小倉と山崎はその箱を地面に叩きつけたり、二人が引っ張り合いをし始めたりして、開けようとする行為がだんだん激しくなり始めた。

「ちくしょぉぉ開けよコノヤロ~」

「なんで開かないんだよぉぉぉ」

小倉と山崎はそう叫びながら必死に木箱を開けようとしてるんだけど、その姿が尋常じゃないって感じになってきて、俺も三宮も唖然として見てた。

力づくで止めさせようとも思えないくらい、目が血走ってて必死なんだよ。

「お、落ち着けよ」と言ったんだけど小倉と山崎には、俺や三宮の存在すら目に入ってないみたいな感じで木箱をガンガン地面に叩きつけたり踏んづけたり、引っ張り合いしてる。

ヤバイなコレと思ってさすがに止めに入ったんだけど、小倉はガグガッと口からわけのわかんない声というか音を出して俺を突き飛ばした。

俺と三宮だけじゃどうしようもないから他の連れを呼ぼうにも、当時まだ誰も携帯電話を持ってなかったから、誰かを呼ぶにもその場を立ち去らないといけない。

俺も三宮も一人になりたくないけど、仕方ないから三宮とジャンケンして俺が勝って、俺が他の連れ達を呼んで来る事になった。

もう五時過ぎくらいで、少しずつ夕陽が落ちかけて暗くなり始めたんで、小倉たちの行動とか周りの雰囲気がすごく気味悪く感じた。

二年間溜まり場にしてた場所がまるで別の空間に思えたんだよね。小倉と山崎がコンビプレーしながら木箱を必死に開けようとしてる異常な姿を見ながら

「じゃすぐ戻る!」と走り去る俺に

「頼むから早めに帰ってきてくれよ~」と三宮は泣きそうな感じで返事した。

神社の階段をダッシュで降りて、自転車を置いてる場所まで走って自転車に跨いで走り出そうとした時に、ギョッとした。

さっきのおばあさんが、神社の向かい側の道でニタニタ笑ってた。

俺の方じゃなく、神社方向を見て笑ってた。

俺は神社に戻るわけにもいかず、おばあさんに話かけようなんて事も怖くて出来ず、必死に自転車をこいで、神社から一番近い藤田の家に向かった。

家から出てきた藤田は最初「は?なにそれ」と言っていたが、俺が必死に説明してたら、ようやくヤバイ状況に気づいたようだ。

で、「早く行こう!いや、遠藤も呼ぼう」と藤田の自宅から遠藤に電話して「早く家に来てくれ」と頼んで遠藤の到着を待った。

でも、遠藤は二十分以上待っても来ない。

外がかなり暗くなり始めた事に焦って、藤田の弟に遠藤が来たら神社に来るように伝言を頼んで、俺と藤田だけで神社に戻る事にした。

二人で自転車こいで、神社に到着した時は、さっきいた場所におばあさんはいなかった。
俺と藤田は神社の階段を駆け上がった。

……記憶はここまで。

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次の瞬間俺は病院にいた。

エッと思って起き上がろうとしても起きあがれない。

一生懸命起き上がろうとしたら、足にギプスがはめてあって、腕には手首に包帯。

急に全身に鈍い痛みが走って「うぉぉ」って小さい声が自然に出て、寝たまま苦しんでたら、しばらくして病室に看護婦か入ってきてそこからもよく覚えてないけど、とりあえず家族が来たり先生が来たりして慌ただしい感じになった。

どうやら交通事故に遭って四日間目を覚まさなかったらしい。

「小倉は?山崎は?神社は?藤田は?」とまくしたてて聞く俺に、母さんは最初は

「今はいいの。今はゆっくり休みなさい」とか言ってはぐらかしてたんだけど、何度もしつこく聞いたら、

「小倉君も山崎君も亡くなって……藤田君は重体で……」と言われた。

意味が分からずポカーンとしていると、小倉・山崎・藤田・俺の四人が、自転車に乗って歩道を帰っていたら、トラックが突っ込んできて、小倉と山崎は即死。藤田は意識不明の重体。

後日、図書館で地元新聞読んだらたしかにそう書いてあった。

駆けつけた担任の先生はボロボロ泣きながら「よかったなぁよかったなぁ」って言ってくれてるんだけど、

「おかしい……俺は神社に向かってたんだけど。小倉と山崎は箱を開けようとしてて藤田に助けを呼んで神社に行ったんだけど」

と説明した。

支離滅裂だったのか親や先生は理解してくれなかった。

その日の夜は寝たり起きたりを繰り返しながら、連れが死んだショックより(もちろん悲しかったけど)「おかしい……」という感情が強かった。

翌朝一番で三宮と遠藤が見舞いにきた。

三宮は泣きながら「すまん!俺、三十分待ってもお前が帰って来ないから小倉と山崎を置いて逃げた」と言った。

俺は「あ~そうなのかぁ」としか返事が出てこなかった。せめて神社付近で待っておけよと思ったけど、言えなかった。

三宮は「あの後、小倉が「もう少しで開く!開く!」って叫び出したんだよ。

山崎も「開く!開く!」って

…それが怖くて逃げたんだ」と言った。

遠藤は

「よく分かんないけど、藤田の家に行ったら、藤田の弟から神社に行くから来てくれってお前らが言ってたって聞いて、すぐに神社に行ったんだけど、お前らいなくて、別のがいたから仕方なく帰ったら、次の日事故ったって聞いて驚いたよ」

「別のって?」

「いつも溜ってる場所に何人かいて、暗くてよく見えなかったけど、お前らの自転車はないし、雰囲気がなんかおかしかったからすぐ帰ってきたんだよ」

三宮と遠藤と神妙な顔をしたまま、二十分くらい話して帰っていった。

その後は、刑事が来ていろいろ聞かれたから正直に全部話したけど、神社の話より事故の瞬間の話しか興味がないみたいで、

「事故前後はまったく覚えてないです」

って言ったら、残念そうに帰っていった。

後日、何度かまた刑事や相手の保険屋や弁護士が来て、話を聞かれたけど、神社のくだりより、事故の時の話しか興味ない感じだった。

事故を起こしたトラック運転手は精神的な疾患を持ってたらしくて、事故後に逃走して自殺を図ったらしい。

でも死にきれずに病院にいて、会話にならない状態だって聞いた。

重体だった藤田は結局あの後亡くなった。

藤田の弟は俺を恨んでいるみたいで、退院後に藤田の家に線香あげにいった時も無視された。

俺は、もともと東京の大学に進学が決まってたから、一月から学校に登校して三月に卒業した。

周りは妙に優しくしてくれたけど、俺は気まずくて三宮や遠藤とは距離を置いた。

三宮は四年前に自殺したらしいけど、俺は長い間地元に戻ってないから疎遠になってて詳しい話はしらない。

いろいろあったから地元とは距離を置いてきたけど、昨年十一月に親父が亡くなったから十二年ぶりに地元に帰った。

大学卒業の時に一度帰ったけど日帰りで一時間位しかいなかったから、じっくり帰るのは十二年ぶり。

葬式など全部終わって、すぐ東京に帰ろうと思ったけど、母さんがなんか不憫でギリギリまで実家にいる事にした。

昼間やる事もないんで、十二年ぶりに徒歩で田舎町をウロウロしてたら、急にあの廃神社が気になった。

本当は思い出したくもないんだけど、その気持ちに反して神社が気になる!行きたい!と強く思った。

あの時の関係者といえば遠藤だけど十二年間疎遠になっていたし、連絡しにくい。仕方なく一人で行った。

歩いてみると、神社は家や学校からかなり遠かったんだなぁと思った。

神社に比較的近かった行きつけのスーパーは潰れてビルになってたり、近くにコンビニや大きなショッピングモールやマンションが出来てたり、十二年前とは景観がかなり変わってた。

神社はまだあった。あの日以来の神社だった。

俺は急に怖くなった。心臓が高鳴り、手のひらは汗でジトッとしてきた。

引き返そうと思ったけど、わざわざここまで歩いて来て今さら引き返すのも抵抗があって、思いきって恐る恐る階段を昇った。

変わらない風景のはずだった。でも変わっていた。

神社は綺麗になっていた。賽銭箱や社や石造りの道も綺麗になっていた。

近くに若い女の子が箒を持って掃除していた。

可愛い娘だった。

俺は人見知りするタイプだから、普段は絶対に声をかけたりしないんだけど、神社のこの変貌っぷりを目の当たりにして、迷わず声をかけれた。

「すみません。あの…あのですね。十年以上前に神社に来てた者なんですが」

すると女の子は「はい?」と答えた。

関係ない話だけど顔はアッキーナにソックリだった。髪のとても長いアッキーナだった。
「十年くらい前に神社によく来ていたんですよ、実は」

と言ったら

「少しお待ち下さい」と箒を置いて誰かを呼びに行った。

俺は周囲を見渡した。十二年前にはなかった神社の横のアパートのバルコニーで洗濯物を干している主婦が見えた。

「どうされましたか?」

神主さんなんだろうけど、私服を着た上品な顔立ちの年輩の白髪のじいさんが近寄ってきた。

アッキーナは箒を持ってお辞儀して別の場所を掃除し始めた。

「すみません。十二年前に……」と説明をしたら、神主さんは驚いた表情をしながら聞いていた。

一通り話をした。二年間溜り場にしていた事や、おばあさんの話、事故の話。

「あ~なるほど……実はこの神社は三年前に、○○神社から分祀されて復興したんです」

俺は「はぁ……そうですか……」と答えた。

「まさかそんな話を聞けるなんて思いもしていませんでした。その箱はその時におそらく開いたんでしょうなぁ…アレは冥界の門みたいなもんで、私も実際に手にとった事はないんですが:」

「なんですか?冥界の門って?あの箱どこに行ったんですか?」

「いやぁアレにはいろいろな呼び方があって私どもは忌箱(キバコ)と呼んでます。私がここに来たのが半年前で前任の者が失踪したんですよ。詳しい事は私も聞かされていないんですが、前任者が忌箱に取り込まれたという話を聞きましたが……」

「ええ~!!忌箱ってなんなんですか?小倉たちが死んだのも何か原因があるんですか?!」

「分かりません。う~ん…命をとる事もあるのかもしれませんね…申し訳ないですが……」

それから神主さんはお祓いをしてくれた。神主さんは神主衣装に着替えて、三十分くらい物々しい雰囲気の中でお祓いの儀式をしてくれた。

アッキーナはたまに様子を覗きにきた。俺は正座してお祓いをしてもらいながらアッキーナにさりげなく微笑んだ。

アッキーナはたぶん微笑み返してくれて、出て行った。

「忘れなさい。アレはあなたの人生にたまたま通りかかった通り魔のようなものですから」

と言われた。俺は話せて良かった事と、お祓いのお礼を言って帰った。

その後は東京に戻って普通に生活している。

東京に戻ってしばらく経った頃から夢をよく見るようになった。三日に一回は見る。

あの日、藤田と神社に到着した後の光景だった。

神社に到着した後から事故に遭うまでの内容が断片的に夢に出てきた。

この前は、トラックにひかれたのは運転手の責任じゃなく、俺と藤田が小倉と山崎と車道で揉み合いになっていたところに衝突してきた内容だった。

他にも神社の境内でのおぞましい内容の夢を見た。内容は誰にも言っていない。

夢の内容を口にしたら、とても恐ろしい事が起こりそうだからだ。

最近になって俺は、これは夢じゃなく記憶なんじゃないかと思い始めている。

(了)

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