短編 洒落にならない怖い話

午前二時の廃病院【ゆっくり朗読】

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忘れもしない、それは僕が大学三年の夏の話です。

僕はいくつかのバイトを掛け持ちしていたのですが、その一つに学校の近くにある居酒屋でのバイトがありました。

そこでは同じ学校の生徒が多く働いており、必然的に仲良くなりよく遊びに行くようになりました。

特に仲良くなったのが同じ下宿生活をしていた井上と田尾でした。

ある日、僕の家で飲んでいた時のことでした。

井上が突然「心霊スポットでも行こうか」と言い出しました。

話を聞くと、同じ学科の友達からの情報で地元では有名ないわゆる「よく出る」スポットだそうです。

僕達は酒に酔っていたのも手伝って、行こう行こうということになりました。

その時、僕達は井上と井上の彼女日出子と、田尾と僕の四人でした。

僕と井上は日出子が運転する軽自動車に乗り、田尾は原付で行くことになりました。

そこはK市にある廃墟になった病院でした。

病院は白色の三階建てで、横に広い大きな施設でした。

壁は所々剥れて窓ガラスは割れ、あちこちに落書きがしてあります。

僕達は正面玄関の前に車を止め、持参した懐中電灯で中を照らしました。

いかにもといった感じの建物でしたが、「幽霊より族の方が怖いよな」と冗談を言い合いながら僕達は中に入って行きました。

正面玄関のドアはガラスが割れて鉄の枠だけになっていました。

そこをくぐるように抜けると正面に受付がありました。

受付の中は書類のようなものが散乱し、受付の横にあるロビーにはジュースの缶や瓶が散乱していました。

見ると、受付を中心に左右に通路が続いています。

左右の通路にライトを当てると、左側に診察室、右には食堂や売店の文字が見えました。

僕達は誰ということもなしに左側の診察室の方に足を向けました。

通路の両側には診察室があり、内科・耳鼻咽頭科等々部屋毎にプレートが貼ってありました。

僕達は内科の診察室の中に入ったのですがやはり荒らされており、医療器具らしき物もあっていかにもという感じでしたが、ここも落書きがひどくて怖いという感じはしませんでした。

僕達は少しがっかりしてそこを出ました。

もう帰ろうかと思ったのですが、せっかく来たのでもう少し探検してみようということになり、ロビーの前に二階に続く階段があったのでそこを上がってみることにしました。

二階は意外と綺麗で落書きもあまりありませんでした。

左右の通路を照らしてみると、そこは入院用の部屋として使われていたようです。

僕達は右側の通路を選び、一番手前の部屋を覗きました。

部屋にはパイプベッドが四つ、正面に時計が掛けてあるぐらいで、何も変わったことはありませんでした。

僕達は次々に部屋を覗いていきました。

幾つ目だったでしょうか、僕はあることに気がつきました。

部屋の時計がすべて二時で止まっているのです。

僕は自分の時計を見ます。時刻は二時を指していました。

恐ろしくなった僕はそのことを皆に話しました。

しかし皆は、「偶然だろ」と取り合ってはくれません。

更に奥の部屋へと進んでいきます。

やはりどの部屋の時計も二時で止まっていました。

流石に皆も気味が悪くなったのでしょうか、戻ろうということになりました。

その時です!

通路の反対の方から、「カツン、カツン」という音がはっきり聞こえてきました。

タイルの上をヒールかブーツで歩くような……

皆で顔を合わせると一斉に走り出しました。

僕は部屋の時計を横目で見ながら走ります。時計は確かに二時を指していました。

階段を駆け下り玄関を抜けて一目散に車に向いました。

それでも「カツン、カツン」という音は徐々に大きく聞こえてくるのです。

まるで頭の中でこだまが響いているように。僕達が走るよりも早く、徐々に近づいてくるように……

慌てて車に乗りこみエンジンがかかった時、車が少し「ガァクン」と動くのを感じましたが、そんなことは気にもならず一刻も早くそこから逃げ出したい気持ちで、日出子に「早くだして!!」と怒る様に井上が叫びました。

ものすごい勢いで車は病院の敷地から抜け出しました。

一人で原付に乗っている田尾のことが心配でしたが、その時はそれよりも早くそこを抜け出したいという気持ちで一杯でした。

敷地を抜け狭い一般道に入った時、車の横を田尾の原付が走り抜けていきました。

僕は大分冷静さを取り戻していたので田尾の姿を見てホッとしましたし、もう大丈夫だろうとスピードも落として走っていました。

しかし田尾はフルスロットルで走り抜けていき、あっと思う間に横転してしまいました。

幸い擦り傷程度で済みましたが、ヘルメットを脱がすと顔色は真っ青でした。

彼は見たのです。

僕達の車の後に髪の長い女がへばりついていたのを……

僕は車に田尾を乗せて代わりに原付に乗り、取り敢えず僕の下宿先に行こうということになりました。

その夜はさすがに一人でいるのが怖かったので皆僕の家に泊まっていくことになりました。

朝になると田尾も大分落ちついてきたので、それぞれ家路につきました。

僕も昨夜のことは忘れよう、と思った時でした。

家の電話に留守電のライトが点滅しています。

そういえば昨日は気がつかなかったな、と思いながらボタンを押したのです。

「一件です……」

「ころしてやる」

「……午前二時零分です」

押し殺したようなダミ声が部屋に響き渡りました。

恐ろしくなった僕は受話器を手に取ろうとすると、今度は電話が鳴りました。

恐る恐る受話器を上げると、電話は田尾からでした。

田尾は僕に震える声でこう言いました。

「……もしもしおれ、実はいま家に帰ったら留守電に……」

(了)

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