ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

更新者不明 ncw+

更新日:

Sponsord Link

冬の昼下がりだった。

外はよく晴れているのに、部屋の中だけが薄く灰色で、カーテンの隙間から差し込む光がモニターに反射し、文字がにじんで見えた。暖房は入れている。だが、指先だけが冷たかった。

職探しをしていた時期だ。条件はどうでもよかった。生活費が切れかけていて、選り好みする余裕がない。求人サイトを漫然と眺めていると、片隅に妙に柔らかい文言が目に留まった。

「個人経営の店のスタッフブログを更新する仕事」

それだけだ。業種も規模も勤務時間も書いていない。ただ「簡単な文章が書ければOK」とある。私は無意識にマウスを握り直し、画面を少し近づけた。

公式サイトは白い背景に簡素なロゴだけが浮かんでいた。余白が多く、フォントも初期設定のままのようだ。作り込まれていないことが、かえって個人経営らしい実感を与えてくる。

スタッフブログのページを開く。最新の記事は、仕入れの話、常連客への礼、天気への愚痴。丁寧だが、どこか独り言に近い文体だった。コメント欄は閉じられていて、拍手ボタンだけがぽつんと残っている。

文中に「今日も一人で店を開けました」という一文が何度か出てくる。私は「社長一人で回しているのだろう」と思った。それなら外部にブログ更新を頼むのも不自然ではない。

記事を遡る。ひとつ前、そのまた前。日付が古くなるにつれ、文章は少しずつ長くなり、内容は店の話から逸れていった。

最初は愚痴だった。仕入れ先の値上げ、客のマナー、体調不良。読み手が居心地悪くなる寸前で、必ず「まあ、頑張ります」と締めている。

だが、ある時期を境に、空気が変わった。

画面の白が目に刺さる。文字を追っていると、肩がじわじわと重くなる。暖房は効いているはずなのに、指先の冷えが増していく。

そこから先の記事は、店の話ではなかった。前職での扱われ方、評価されなかった怒り、理解されなかった悔しさ。固有名詞は伏せられているが、感情だけが生々しく、行間に染み込んでいる。

読み進めるうち、私はマウスを戻すタイミングを失っていた。

「これ、公開して大丈夫なのか」

そう思った瞬間、画面の一部が妙に眩しいことに気づいた。白地に黒文字。そのはずなのに、ある行の隙間だけが紙を擦ったようにざらついて見える。

無意識にドラッグして反転させた。

黒が消え、代わりに白い文字が浮かび上がった。

【○○は精神異常者】

社長のフルネームだった。本文では伏せられている名前だ。息が止まる。反転を解除し、別の行をなぞる。

【○○は精神異常者】

背中に薄く汗が滲む。暖房の音が急に大きく聞こえた。

本文には、前職の上司への恨み、辞めたスタッフへの不満、警察沙汰になった出来事が書かれている。その行間や文末に、背景と同じ白で書かれた言葉が潜んでいた。

【謝罪しろ】
【訴えてやる】
【○○は精神異常者】

コメント欄は閉じられている。外部から書き込める場所はない。私はスクロールしながら、喉を鳴らした。

古い記事になるほど、白い文字は増えていく。最後には、本文よりも多くの白がページを占めていた。

【○○は精神異常者】
【○○は精神異常者】
【○○は精神異常者】

罵倒というより、反復される呪文だった。

社長は、これに気づいていないのか。それとも、気づいていて消せないのか。考えようとしたが、思考がうまく繋がらない。

ブラウザのアドレスバーを見る。単純な英数字の羅列だ。構造は、推測できそうだった。

「スタッフブログ」
「更新する仕事」

嫌な想像が頭をかすめる。

その瞬間、画面が一度、細かく揺れた。スクロールが勝手に下へ進む。マウスには触れていない。

最古の記事に辿り着いた。

十年以上前の日付。文章は短く、丁寧で、まだ希望があった。

「新しくお店を始めました」
「一緒に頑張ってくれる仲間を募集します」

白文字は少ない。だが、確かに存在していた。

【見ている】
【ここにいる】

背中を冷水が走る。反射的に画面を閉じようとして、指が止まった。ページの隅に、今までなかった入力欄が表示されている。

ログイン画面だった。IDとパスワード。

なぜ、今まで見えなかったのか分からない。ただ、そこにある。

私は適当な文字列を打ち込み、エンターキーを押した。

画面が切り替わる。

エラーは表示されなかった。

一覧画面には、読んできた記事が時系列で並んでいる。編集欄を開くと、本文と白い文字が同時に表示された。

カーソルは、白文字の途中で点滅していた。

【次は】

どこまでが表示で、どこからが入力なのか分からない。

黒い画面に映った自分の顔は、目の下がやけに暗い。画面から、埃と古い紙と、閉じ込められた空気の匂いがする。

カーソルが、ゆっくりと動いた。

名前欄か、本文欄か、それとも別の場所か。判別できない。

そのとき、求人票の一文が、遅れて蘇った。

「簡単な文章が書ければOK」

白い背景が、広く、静かに待っている。

私は、キーボードに指を置いた。

(了)

[出典:628 :恐い:2014/01/07(火) 14:10:27.42 ID:sThrG4460]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2026

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.