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天安河原で見た二人 rw+2,767

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宮崎に行ったのは、十年前の十一月だった。

大学の仲間五人で、夏休みをずらしての旅行だった。車を借り、ルートを決めたのは先輩の女だ。霊感だの波動だのを半分本気で語る人間だったが、面倒見はよく、誰も逆らわなかった。

行き先の目玉は高千穂だった。渓谷も神社も回った。観光地としては十分に整っていて、写真を撮り、笑い、普通に楽しかった。

問題は天安河原だ。

川沿いの細い道を歩き、岩陰へ近づくにつれ、空気が重くなった気がした。谷底を流れる水音が、やけに近い。木漏れ日の下、石が積まれていた。

無数だった。

掌に乗るほどの石が、三段、五段、七段と積まれ、道の両脇を埋めている。崩れた痕跡は見当たらない。どれも静かに、同じ高さで止まっている。

「ここ、しゃがまないで。笑わないで」

先輩が真顔で言った。

奥の岩のくぼみに小さな祠があった。その脇に、子供が二人しゃがんでいた。

上が六歳ほど、下が四つか五つ。ランニングシャツに薄いズボン。季節を無視した格好だった。石を拾い、積み、口を動かしている。

「〇〇はもうだめやね」
「今夜でしまいや」
「うらみかっとるけんね」

人の名前らしき音が混じる。遊びの調子ではない。声は小さいのに、やけに明瞭だった。

背後から腕を強く引かれた。先輩だった。

「行こ」

祠の方を一度も見ないまま、早足で歩き出す。

「見た?」

小声で問うと、短く答えた。

「三年前も、いた」

「同じ子?」

「同じ」

それ以上は言わない。

駐車場まで戻る間、誰も振り返らなかった。夕飯の席でも、あの話題は出なかった。

東京に戻ってから検索したが、それらしい話は見つからない。写真には、石の山と祠しか写っていなかった。子供の姿はどこにもない。

ただ、ひとつだけ気になったことがある。

あれだけ積まれた石に、崩れた跡がなかった。子供たちが歩いたはずの足跡も、石の列の乱れもなかった。

積まれたまま、誰にも触れられず、誰にも壊されない。

あの場所では、壊す役目の何かが、来ないのかもしれない。

それなら、積む役目の方はどうなる。

三年前に見たという先輩は、いま連絡がつかない。

最後に届いたメッセージは、短かった。

「名前、呼ばれた」

それきりだ。

あの河原では、今日も誰かの名が積まれているのだと思う。石は崩れず、声だけが増えていく。

そして、まだ呼ばれていない名前が、ひとつ残っている。

それを、いま誰が持っているのかは、分からない。

[出典:785 :本当にあった怖い名無し:2020/07/15(水) 17:22:25.13 ID:7Ty1/vsL0.net]

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