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鑑識マル秘事件簿 r+4,012

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これは、俺がまだ鑑識にいた頃に体験した、忘れられない不気味な出来事だ。

冷たい冬の雨が、アスファルトを叩く音がしんしんと響く、そんな晩だった。時計の針が夜の10時を回った頃だったか。
山積みの書類整理にようやく一区切りつけ、俺は先輩とインスタントコーヒーをすすりながら、くだらない雑談に興じていた。張り詰めた日常の中の、束の間の休息だった。

その時、静寂を切り裂くように、無線機がけたたましいノイズと共に鳴り響いた。
『〇〇町7丁目〇-〇――至急、マルタイ(対象)死亡の可能性あるひき逃げ事案発生』

「行くぞ」。先輩のその一言で、さっきまでの緩んだ空気は一瞬にして吹き飛び、張り詰めた緊張感が部屋を満たした。
俺がハンドルを握り、ワイパーが忙しく雨を掻き分ける中、赤色灯の光が濡れた夜道を照らし出す。現場へと急いだ。

耳をつんざくサイレンの音とは対照的に、助手席の班長が、窓の外の雨を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「こういう、しとしと降る小雨の夜はな……妙なことが起こりやすいんだ」

「妙なこと、ですか?……まさか、その、幽霊とか、そういう類の?(笑)」
半ば冗談で返した俺に、後部座席にいた先輩が、低い声で囁いた。
「……そのまさか、だよ」
冗談なのか本気なのか、判別がつかない声音だった。俺は元々、怪談やホラーが好きだった。不謹慎とは思いつつも、妙な胸の高鳴りを抑えきれないまま、現場に到着した。

無線では死亡ひき逃げと聞いていた。俺は鑑識器材のバッグを肩にかけ、先に到着していた制服警官と話す班長の後を追った。
「マルガイ(被害者)はどこだ?」班長が低い声で尋ねた。
警官は一瞬言葉を詰まらせ、視線を伏せながら、震える指で一点を指し示した。「……あそこに」

指し示された先には、道路脇にハザードランプを点滅させた乗用車が一台、雨の中に佇んでいた。ひき逃げと聞いていたが、どうやらマルヒ(被疑者)は現場に戻ってきたようだった。
そして、その車のルーフキャリアに目をやった瞬間、俺は息を呑んだ。全身の血が凍りつくような感覚。

……そこには、頭部が無残に潰れた遺体が、まるでしがみつくように、横たわっていたのだ。

百戦錬磨の班長ですら、一瞬、目を見開いて絶句していた。だが、すぐにプロの顔に戻り、「……よし、現場検証、始めるぞ」と、俺たちに指示を飛ばした。

マルヒの供述は支離滅裂だった。人を轢いたことに気づき、一旦は停車したが、恐怖に駆られて逃走。しかし、車を発進させようとした瞬間、轢いたはずの『何か』が、車の屋根に這い上がってきた、と。彼はそう主張した。

当然、そんなオカルトじみた話が報告書に書けるはずもない。最終的には、「轢いた衝撃で偶然遺体がルーフキャリアに乗り上がった」という、いささか苦しい見解で処理された。

だが、現場でその光景を目の当たりにした俺には、到底そうは思えなかった。
遺体の指は、硬直していたとはいえ、明らかに、ルーフキャリアのバーを、強い力で、掴んでいたのだ。

「気にするな。こういう仕事をしていると、時々あることだ」。班長や先輩は、そう言って俺を諭した。警察官や消防士など、凄惨な現場に立ち会う職種の人間は、少なからず、こうした科学では説明のつかない不可解な体験をするものなのだ、と。

鑑識時代には、他にも奇妙な出来事がいくつかあったが、それはまた別の機会に話そう。今は地域課に異動したが、そこでもまた、不可解な出来事は後を絶たない……。

ここまで読んでくれて感謝する。文章でどれだけ伝わるかはわからないが、あの時の光景は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。鑑識に配属されたばかりで、遺体に対する耐性がなかったせいもあるかもしれない。だが、あの遺体の、ルーフキャリアを掴む指の力強さは、単なる偶然や見間違いでは片付けられない、異様な何かを感じさせた。

世の中には、我々の理解や常識を、遥かに超えた出来事が、確かに存在する。
俺は、あの雨の夜以来、そう確信している。

(了)

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