あの夜のことは、角造さん本人から聞いた。
だが語り終えたあと、彼は何度も「俺は何人だった」と呟いた。その意味だけが、今も分からない。
島の夜は暗い。海鳴りと風が混ざり合い、音の境目が消える。仕事が長引き、角造さんが帰路についたのは小雨が降り出した頃だった。ワイパーが規則的に動き、ヘッドライトが濡れた路面を白く裂く。窓は閉めているのに、潮混じりの冷気が膝のあたりに溜まるような感覚があったという。
進行方向に赤い点滅が浮かび上がった。道路工事だった。通行止めで、再開の目処は立っていないと言われ、角造さんは車内で待つことにした。エンジンを切ると、海の音が急に近づく。時間を持て余し、煙草を吸おうと外へ出た。
少し離れた簡易テントの下で、作業員たちが話していた。

「ここ、七人岬って呼ぶだろ」
誰かがそう言い、別の誰かが笑った。七人の坊主が流れ着いたとか、供養がどうとか、はっきりしない断片が雨音に紛れて耳に入る。角造さんは内容よりも、声の揃い方が気になったと言う。誰か一人が喋っているのではなく、複数の声が、同じ高さで重なって聞こえた。
やがて工事が再開し、角造さんは車に戻った。ドアを閉めた直後、地面の奥から低い唸りが上がった。次の瞬間、崖が崩れた。土砂がライトを呑み込み、鉄骨が折れる音が重なり、叫び声が途切れた。
角造さんの車は無事だった。崩れたのは、彼が立っていた場所と、作業員たちのいた一帯だけだった。
夜が明けるまで救助が続いた。警察署で事情を聞かれ、帰り際に彼は尋ねた。
「何人、いましたか」
警官は資料から目を上げずに答えた。
「作業員は六名。通行止めで待機していた車両が一台。計七名です」
その瞬間、角造さんは言葉を失った。自分は通行止めで待っていた。煙草を吸いに外へ出た。崩れた場所にいた。
「俺は……どこに入るんですか」
警官は怪訝そうに眉をひそめた。
「あなたは被害者ではありません」
そのはずだった。だが角造さんは、その晩のことを語るたびに、人数が合わないと言う。作業員は六人だったのか七人だったのか。テントの下に何人いたのか。笑い声は何人分だったのか。
島を離れて本土で暮らすようになってからも、彼は雨の日のニュースを避ける。崖崩れの映像を見ると、無意識に数えてしまうからだという。
六、七、八。
数えるたびに、ひとつ多い。
先日、彼から久しぶりに電話があった。
「この話、何人にした」
そう聞かれた。私は思わず答えに詰まった。彼の話をこれまで何人にしたのか、正確には覚えていない。三人だったか、四人だったか。
受話器の向こうで、角造さんが静かに息を吐いた。
「足りないんだ」
通話が切れたあと、私は指折り数えた。この話を聞いたのは、私でひとり目。
では、あなたは何人目だろう。
七人岬の名は、今も地図に残っている。だが供養塔に刻まれた人数は、調べるたびに違う気がしてならない。
数え直すたび、ひとつずれる。
そして、ずれた分だけ、どこかで誰かが余る。
[七人坊主~七人岬の夜]