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スパゲティ屋の若奥さんr+4149

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これは、あるマンションの住人から聞いた話だ。

そのマンションが建てられたのは十年ほど前。駅前の便利な立地にあり、入居者も次々と集まり、マンションの一階には店舗が軒を連ねた。洒落たカフェや雑貨店が並び、その一角には夫婦が切り盛りするスパゲティ屋もオープンした。新築のぴかぴかの内装、センスのよい赤を基調にしたデザインが目を引いた。明るい店主夫婦が、丁寧に接客をしている。味も評判で、常に満席状態のようだった。

しかし、それも三年ほどで変わってしまった。スパゲティ屋の若い奥さんが、みるみるうちにやつれてしまったのだ。いつも朗らかで、柔らかな笑顔を見せていた彼女が、次第にうつむき、顔色も冴えない。そんなある日、奥さんの姿は消え、数日後、店は「臨時休業」となった。

噂好きの住人の一人がぼそりと漏らす。「旦那がアルバイトの若い女の子と浮気して、それが原因で奥さんが自殺したらしい」。真偽は定かではないが、噂は瞬く間に広がり、妙なことに誰もがそれを信じ込むようになった。そして再開した店内には、奥さんの姿はなく、どこかすすけた雰囲気が漂い始めた。

赤いデザインの店構えはそのままなのに、どこか薄暗く、古びた感じがした。見上げると、壁紙がはがれ、店内の照明は点いているのに、暗い影が漂うようだった。花壇には花が植えられ、窓辺にはかわいらしい小物が飾られているのに、まるで廃屋の骨董屋のような寒気を誘う。店内に入ってみても、どこも壊れているわけではないのに、異様なカビ臭と底冷えするような冷たさに覆われ、夫の元気な挨拶が何とも不気味に感じられた。

その後も、スパゲティ屋は次第に客足が遠のき、最終的に店主は夜逃げ同然で姿を消した。そして、新しい店が次々とオープンしては数ヶ月で潰れていった。どれだけ改装しても、店内にはやはり不気味な暗さがこびりついて離れないのだ。

何軒目だっただろうか。「時代遅れの喫茶店」がやや長く続いたが、その店主もある日、店で心臓発作に倒れて亡くなったという。居合わせた住人の一人が見ていたことから、その事実は間違いない。

最後にできた漫画喫茶も数ヶ月で店じまいした。今は、改装業者が店を覆い隠すようにシャッターを取り付けたという。新築だったマンションの一角に、異様に朽ちた空間が存在する。誰もその場で商売を続けられない。

スパゲティ屋の若奥さんが置き去りにした哀しみの気配が、未だにその場所を支配しているようだと、住人たちは今も囁いている。

(了)

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