俺の母の話なんだけど、もう何十年も前になるけどOLをしていた頃に、会社の近くで都市ガスに引火する事故があったらしい。
結構、野次馬が集まっていて、母も会社の同僚と連れ立ってその事故を見物に行こうとしたんだけど、その時、男の子の声に引き止められたらしい。
「そっちに行かないで、お母さん」
「そっちに行かないで、お母さん」
まるでステレオ放送みたいに、二人の男の子が同じ声で話しかけてくる声だけが聞こえてきたそうだ。
あたりを見回してもそんな声を出しそうな子供は居ないし、自分も子供どころか結婚すらまだしていない。
首をひねりながらも、同僚にはまったく聞こえていないその声が気になり、事故を見物に行くのをやめたらしい。
そして、同僚ともども引き返している途中で、後ろから鳴り響く爆発音。
二次災害で、漏れたガスが大爆発を引き起こしたか何かで、野次馬に来ていた数十人が死亡、数百人が重軽傷をおったとのことだ。
「あんた達が止めてくれたのかもね」
その事故から10年後に双子で生まれてきた俺と弟に、笑い話風に母が以前語ってくれた。
確かに、もし母がその事故に巻き込まれて死んでたら、俺たちは生まれてこなかったんだなぁと思うと、感慨深いものがある。
天六ガス爆発事故とは
1970年4月8日夕刻、大阪府大阪市北区菅栄町(現・天神橋六丁目)の、大阪市営地下鉄谷町線天神橋筋六丁目駅の工事現場で起こったガス爆発事故。死者79名、重軽傷者420名。
(了)