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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

子どもの頃、金色の魚を飲み込んだ ncw+400-0206

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子どもの頃から、胸の奥に沈んだままの記憶がある。

長いあいだ、それを幻覚として処理してきた。熱に浮かされた幼児が見る、ありふれた幻想だと自分に言い聞かせ、思い出さないようにしてきた。

だが、四ヶ月前、ある出来事をきっかけに、その記憶は形を保ったまま浮上してきた。押し戻そうとしても戻らない。今日は、それをそのまま書く。

私は霊感がある人間ではない。不思議な体験を探し歩いたこともない。占いや心霊話に傾倒した時期もない。
ただ、幼い頃、夜になると必ず遭遇していたものがあった。

空中を漂う、金色の魚だ。

最初に見たのは四歳か五歳の頃だったと思う。高熱を出し、布団の中でうなされていた夜だった。部屋は暗く、カーテンの隙間から月明かりだけが差し込んでいた。
天井のあたりに、ふわりと光が揺れた。

最初は金色の帯のように見えた。それがゆっくりと輪郭を持ち、細長い形へ変わっていった。魚だった。
異様なほど痩せ細った体に、やけに鋭い歯の並ぶ口。後年、図鑑で見た深海魚に似ていると知ったが、当時の私はそれを怖いとは思わなかった。

むしろ、美しいと感じていた。

鱗のような光の粒が静かに瞬き、泳ぐたびに部屋の空気が変わる。重く沈み、耳の奥が詰まり、呼吸が水の中にいるように浅くなる。
それでも恐怖はなかった。私は布団の中から、それを眺めていた。

なぜか、その魚を「キンピラ」と呼んでいた。
誰かに教えられた覚えはない。意味も由来もわからない。ただ、その名前だけが自然に浮かんだ。

「キンピラ」

声に出しても、魚は反応しなかった。部屋の中をゆっくり回り、私の周囲を円を描くように泳ぐだけだった。

そういう夜が何度もあった。熱を出した夜、眠れずに目を覚ました夜。必ず、あれは現れた。
十歳を過ぎた頃から、見なくなった。

最後に見た夜のことは、今も細部まで覚えている。

天井をぼんやり見上げていると、視界の端から金色の影が入り込んできた。気づけば、いつもの位置に浮かんでいた。
私は安心していた。いつも通りだと思った。

次の瞬間、魚の動きが変わった。

一直線に、こちらへ向かってきた。

避ける間もなく、口を開かれ、顔に押し付けられた。喉の奥へ、無理やりねじ込まれる感覚があった。
息が詰まり、声が出ない。

胃のあたりで、異物が暴れ始めた。内側から引っ掻かれるような痛み。水泡が弾けるような音が、体の奥で鳴った。
私は布団を掴み、耐えるしかなかった。

やがて、魚は分裂した。
ひとつだった感覚が、無数に散った。血管の中を走り、骨の隙間をすり抜け、毛穴という毛穴から抜けていく。
自分の輪郭が崩れていく感覚だけが残った。

吐いた。胃の中のものをすべて吐き出し、そのまま意識を失った。

目を覚ましたとき、魚はいなかった。
それ以来、一度も見ていない。

成長するにつれ、私はこの記憶を「幻覚」と呼ぶようになった。
熱による錯覚。子どもの脳が作り出した映像。そう結論づけることで、日常は問題なく続いた。

四ヶ月前までは。

友人に勧められ、軽い気持ちでヒーリングを受けた。特別な期待も、不安もなかった。
目を閉じ、呼吸を整えた瞬間、空気が重くなった。

耳の奥が詰まり、胸が沈む。あの夜と同じ感覚だった。
姿は見えなかった。だが、そこに「いる」とわかった。

キンピラ。

終わった後、ヒーラーが言った。
「あなたの周り、重たい感じがしました」

それだけだった。形の話は出なかった。金色とも、魚とも言われなかった。
それなのに、私は全身に汗をかいていた。

帰宅してから、ずっと考えている。

あの夜、体内で散ったものは、本当に外へ出ていったのか。
毛穴から抜けた感覚を、私はそう解釈しただけではないのか。

私は今、自分の体を完全に自分のものだと断言できない。
夜、ふと目を覚ますと、呼吸の重さを確かめてしまう。耳の奥に、圧がないかを探してしまう。

見えなくなっただけで、終わったとは限らない。
あれは入った。そこだけは、否定できない。

[出典:338 :本当にあった怖い名無し:2008/08/19(火) 00:06:20 ID:SNKJgZcJ0]

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