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短編 r+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

異世界なのかわからんが俺が不思議な村へ行ったときの話をする r+18,203(読者参加型リライトコンテンツ)

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家から十五分の低山は、町の子どもが鬼ごっこで登るにはうってつけの緩斜面だが、年寄りは頑固に近寄らない。祖母は茶箪笥の引き戸を鳴らし、急須を手にしたまま真顔で言った。

――あの山は犬神様に守られている。山道を奥へ進めば常世が顔を出す。外の空気で濁った人間が長居すれば、神さまが喉を鳴らす――

祖母の唇は抹茶羊羹より渋い色をしていた。怖がらせようとしているわけではない。事実を確認するような淡々とした声だった。

十七の夏休み、午前九時。セミの合唱がまだ温まらぬ日射しをせかす頃、ぼくはジャージの胸ポケットにスマホを突っ込み、リュックの底にポテチと麦茶を放り込んだ。靴ひもを二重に結び直すと、山の入り口を示す標識の前に立った。アルミ板の矢印は錆び、下草が飲み込みかけている。

舗装された坂を上り始めると、背後でバス通りのエンジン音が遠ざかった。靴底のラバーがアスファルトをすべり、樹冠に蹴返された朝日が黒い路面を歪ませる。二十分ほど歩くと、周囲の光が灰色の膜で曇った。スマホのコンパスが首をもたげ、北マークがスピナーのように回転する。

「まさか、磁場いじってるんじゃないよな……」

自分に聞かせる独り言は、霧吹きでかけた水みたいにすぐ散った。杉は密度を上げ、湿った樹皮の匂いと焦げた苔の匂いが鼻孔を占拠した。陽射しは葉裏で拾い読みされ、地表には届かない。

右手に古い工事看板が出現した。『林道拡幅工事 平成元年度着工』と書かれている。なのに舗装の幅は人ひとり半。看板の脚を包むコケは瑞々しく、誰かが朝露をかけたように光っていた。五メートルほど先にはキャタピラが朽ちたブルドーザー。運転席のガラスは割れておらず、シートに埃も積もっていない。昨夜まで仕事をしていたかのようにきれいだ。

道がゆるく左へ折れたところで視界が開けた。霧がわずかに薄くなり、盆地の底らしき平坦地に茅葺き屋根が五棟寄り添うのが見えた。畑で麦わら笠が三つ、鎌を振っている。鳥の鳴き声が無いのに気づき、喉仏が自分の鼓動をせり上げてきた。

「やば……ほんとにあったのかよ」

声は情けなく震えたが、足は勝手に前へ出た。自販機ひとつ無い集落に喉の渇きは場違いだが、水分は麦茶しか残っていない。厚かましいとは思いつつ、畑の一番手前で鎌を振る老人に手を振った。

「すみませーん! 水、もらえませんか!」

老人は鎌を腰に差し替え、麦わら笠を少し持ち上げた。額の皺が縦横に走り、瞳は清水の底石のようだ。

「迷い込んだか、若いの。口が渇くのは当たり前じゃな」

老人は竹筒を腰の瓢箪から外すと、ぼくの手に押し当てた。竹の節目ごとに走る細いひびに、冷気を孕んだ水が揺れた。一口で喉を湿らせると、胃袋が嘘みたいに静かになった。

「生き返りました……助けていただいてありがとうございます」

「礼は要らん。わしらの犬神様が、外の話を聞きたがっとる。村長の家へ来い」

老人は木訥な言い回しでぼくの肩を軽く叩き、集落の中央へ導いた。板戸に格子が嵌まった家が道の脇に並び、縁側には胡瓜をかじる子どもと、それをあやす母親らしき人影。昭和の古写真より古い空気が陽炎のように揺れている。

村長宅は他の家より一回り大きいが飾り気はなく、木戸を開けると土間に炭火の残りが赤く宿っていた。奥座敷に白髪の老人が正座し、膝前には漆黒の箱。

「外から参った若者か。よくぞここへ」

吐息よりも細い声なのに、言葉は鞭のように芯を打った。

「はい、ハイキングのつもりで山に入りました。地元なので……ええと」

「心配は要らん。犬神様が風の匂いを吸い込みたくなると、客人を呼ばれる。おまえはその風だ」

「は、はあ……犬神様って、どこに?」

問いを終える前に、村長の視線が奥の漆黒の箱へ落ちた。箱は水面のように光を吸い、天井のすす竹を映している。

「犬神様はここにおわす。ただし、この目で姿を追うのはならん。結界がねじ切れかねん」

村長の声に老人の畑土の匂いが重なった。ぼくは使命感も信仰心も無いまま頭を下げたが、膝裏が震えた。

「わしの家に泊まれ。腹も減っとろう」

さきほどの麦わら笠の老人が口を挟み、村長はうなずいただけで眉根をほどいた。

老人の家は川音の近い一角にあった。土間を上がると、囲炉裏から簾のように立ち上る煙が梁を薄くすすけさせている。物静かな奥さんが藍染の割烹着で味噌汁を撫で、奥の部屋から娘が飛び出した。

「お父ちゃん、誰? 新しいお客さん?」

娘は陽焼け跡を額に残し、瞳は黒豆みたいに丸い。十歳くらいかと思ったが、あとで聞けば十四という。村には子どもが三人しかおらず、外の世界に触れられる機会は年に一度も無い。

「この人、ほんとに山の外から来たの?」

「スマホ見せてやれ」

老人がニヤリと笑い、ぼくはポケットのスマホを差し出した。娘――芋と呼ばれているらしい――は両手で祈るように端末を受け取り、画面を点けて目を丸くした。

「動いた! 絵が動いた!」

「動画ってやつさ。ほら、これは夜の東京タワー」

画面に赤橙の塔が点滅すると、芋は肩を震わせた。

「夜なのに昼みたい……すごい。ねえ、そこでは夜でも遊べる?」

「終電逃したら歩いて帰る羽目になるけど、まあ遊べるよ」

会話は芋の質問攻めで途切れなく続き、日が西へ傾いても熱は冷めなかった。やがて奥さんが椀を並べ、山菜と干し椎茸の炊き込みご飯、味噌仕立ての猪鍋、きゅうりの塩揉みが並んだ。肉の匂いは野趣に溢れ、舌より先に嗅覚が膝をつく。

食後、外はまるで月を待たずに暗転した舞台。虫の声が上ずり、谷底から太鼓の低い胴鳴りが届いた。芋が湯のみを置き、眉尻を跳ね上げた。

「まさか今日だったの……」

芋の視線は縁側の闇へ貼りつき、肩が小さく震えていた。

「何が『今日』なんだ?」

「犬神祭。マレビトを迎える夜……お兄さん、早く荷物まとめて」

芋は半ば泣き声で言い、襖越しに眠る両親へ声が届かないか気を揉んだ。

「迎えるって、まさか……」

「生きたまま鎖で繋がれて、“お気に入り”にされる。魂は村の土台石になって、二度と外へ戻れない」

猪鍋の温度が喉から胃へ降りていくのと同時に、背筋が氷結した。芋は障子を靴音も立てず開け、薄闇の庭先を指差した。

「結界柱の一本に細い割れ目がある。夜明け前に少しだけ緩む。あそこから外に出て」

「いっしょには?」

「私は行けない。外の空気を吸ったら、犬神様が怒る。けど、お兄さんは呼ばれたわけじゃない。だから逃げて」

庭の向こうで松明の揺光が揺れ始めた。太鼓が骨皮を打ち、獣皮に染みた血の匂いが風に乗った。犬面の神輿が山道の黒を舐めるように進む。長い鎖の輪が月光を掴んで火花のように散る。

走れ。

足を踏み出すたび、膝が抜けそうになった。濡れた苔が足袋代わりになり、呼吸は杉の樹脂でむせた。松明の列は坂を下り、神輿が谷を渡るたび遠吠えに似た歓声が重なった。獣と人の境目が混線した声だった。

割れ目は芋の言った通り、結界柱の根元に爪痕のように開いていた。幅は肩で押し広げられる程度だが、内側からは冷たい風が吸い出されている。勇気より先に絶望が背中を押した。

柱の向こうへ肩を滑り込ませた瞬間、首筋に熱い吐息が触れた。振り向くと煙の壁に金の瞳が二つ浮き、闇の筋肉が鞭のようにしなる気配。声にならない悲鳴を飲み込み、地面を蹴った。

走った距離は数百メートルか数キロかわからない。足首が石に乗り上げ、転倒し、泥が口角を削る。黒い闇が急に薄まり、舗装路の白線が靄の中に浮いた。街灯のナトリウム灯が夜明けの前触れを押し返し、鳥の声がテープ起こしのように現実を上書きした。

帰宅すると両親は警察官と並び、半泣き半怒りの説教で出迎えた。祖母だけが何も言わず、仏壇の前で静かに手を合わせていた。

熱を出して寝込んだ一週間、夢で芋がスマホを抱えて夜の東京タワーを指さす場面を繰り返し見た。目覚めるたびに、ジャージのポケットに入れたままの竹筒の栓が冷たかった。

数年後、Google Earthで例の山を検索すると、稜線の一点が卵形に白飛びし、周囲と解像度が合わない。何度更新しても修正されず、熱赤外線マップを重ねるとそこだけ異常低温区域。

深夜、監視カメラに映らないライトの噂は今も増殖している。歩道橋で北斗七星を眺めるたび、スマホのコンパスがあり得ない方向を向いていないか確認する。幸い北は北を示し、街灯の明かりは衛星写真に残る。

ただ、靴ひもを締め直すたび、あの割れ目の向こうに吊るされた鎖の先端が光を投げかける。そして芋が呟いた声が耳に蘇る。

――外の風を吸ったら、犬神様は怒る。

怒りを買わぬよう、ぼくは今日も山を見上げず、横目で小さく礼を送る。神さま、風はここで満足している。誰も迷わせずとも、外の話ならいつでも届けます。


本作は、読者さまからのコメントを受けてリライトしたものです。2025年06月16日(月)


原作:【異世界】俺が不思議な村へ行った話(画像付・グーグルアース有り)#14,343

こんな時間だし俺が不思議な村いった話するわ

1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/12/02(日) 02:29:45.63 ID:hidcP4WD0

家の近所には小さい山があるんだわ。

入り口から中までアスファルトで舗装されてるんだけど、何で舗装されてるのか謎。

登山目的ってわけでもないし、伐採をやるわけでもない。

20年以上前からそんな感じだから近所の婆ちゃんに聞いてみたら、「あそこは昔、色々あってな……」

その、色々を聞いても、教えてくれない婆ちゃん。

小学生の頃の俺はそれで納得してた。

ちなみにこれが入り口の写真。

木の葉が散っててアスファルトが見えないのは勘弁な。

それから高校生になって、その山について自分でも調べたんだよ。

見た目にはそんなに高くない山なんだけど、案外広い。

それで十五年ぐらい前に人がやって来て家を建てたんだわ。

これなんだけど、家っていうよりは小屋って感じだろ?

ちなみにその家には一年も人が住んでなかったと思う。

こんな感じで雨戸があって中は見れんのだが。

それでなぜか家の周りには、ブルと簡易トイレが放置されっぱなしになってる。

気づいたら建ってて、人が住んでたのかどうかも謎。

別荘にしては小さいし、人が住むにも小さい。交通の便も悪いしな。

山登っていくとこんな看板があったりな。

昔はなんか書いてあった気がするが今はわからん。

それでここが二年ぐらい前まで工事やってた場所。

この工事も謎で、伐採をやっていたと言われればそうかもしれないんだが。

俺が前見たときはデカイ缶?みたいなのを放置してた。

工事車両も沢山登ってたが今は放置やな。

で、本題に入るんだが。

高校生の夏休み、暇だった俺はこの山を探検してみたいって思ってな。

ポテチとジャージ装備して山を登ったんだ。今思えばもう少し装備してけば良かったなと。

こんな感じの道を進んでいったんだが、実際に今日撮ってきた画像な。

一時間ぐらい登って、自分が今どこにおるかわからんくなったんやな。

どう考えても自分が悪いんだが、その時は怖くても先に進めばなんとかなると思って前に進んだ。

で、どれぐらい登ったかわからんけど、喉が渇いたしポテチ食ってると水分無くなるしで、そんな時に開けた場所で村みたいなものを発見したんだよ。

木造の家が五つぐらい並んでて、その家も時代劇に出てくるような木造の古臭い家。

それで畑作業をしている人が数人チラホラ見えた。

ここで既に怪しいんだが、喉が渇いてた俺は「すいませーん」と大きな声で、畑仕事してたおっさんに話しかけた。

「お前。外から来たんか?」

「外? 多分そうです。それと水を……」

「ちょっと待っとり」

なんか竹筒みたいなやつから水くれたおっさん、マジ良い人だった。

「そんじゃ村長のところ行くか」

この時はもうなにをされてもいいなって思えるぐらい、おっさんが神に見えた。

村長の家なんだが、別に他の家と特になにが違うってわけじゃなかったんだよな。

家の中にいた村長は白髪だらけの普通のじっちゃんだった。

「おぬし、村の外から来たのか?」

「はい、そうですけど」

「そうか……」

そこからなにも話が進まない。それで俺から話を切り出してみることにした。

「あの。皆さんは外の街にでたりしないんですか?」

「犬神様がおるでの。外に出たらあかんのじゃ」

普段の俺なら、宗教くさい、って一蹴してたけど、村長の目がマジだったので黙っておくことにした。

それでしばらくして、さっきのおっちゃんが戻ってきて、握り飯をくれた。

塩しかついてないけど、空腹なら美味しいんだな。

「今日はウチにおいで」

「お世話になります!!」

おいで、っていうのは遊びにおいでって意味だと思ってた高校生の俺。

おっさんの家に行ったら、薄幸そうな嫁さんと、芋っぽい顔した女の子がいた。

「おい芋!この人と遊んであげぇ!!」

「わかった!!」

それから一緒に遊んだんだが、この村には他に子供が二人しかおらんから、四人で鬼ごっことか隠れんぼなんかをして遊んだ。

で、遊んでいる内に日が暮れて、これはそろそろ帰らなくちゃまずいんじゃないかと、今更になって不安になってきた。

「おっちゃん。今日はもう帰りたいんだけど」

「もう遅いけぇ、この暗さで帰るより、明日の朝、帰り!!」

全くもって正論なので、少し不安だったけど世話になることにしたんだ。

夕飯は、汁ものと飯と漬物な。そこでの夕食も美味しかった気がする。

それで、夜になっておっちゃんたちに色々外のことを話した。

まあ、なに話しても嬉しそうに聞いてくれるので、べらべら俺が喋ってただけなんだが、それで夜も深くなった頃、寝てたら誰かにゆすられて起きたんだけど、芋がトイレに行きたいと言って来た。

「トイレは外にあるけ、おとうちゃんたち起こさんようにな」

俺も半分寝ながら音を出さないように外に出たんだ。

そしたらいきなり芋が真顔になった。

「にいちゃん!早く外に逃げり!!」

「えっ? なに、いきなり」

「ここにおったら、生贄にされてまうで!!」

なにを言ってるのかわからなかったが、なにやらヤバイ感じはした。

「でも、帰り道がわからない」

「にいちゃん、あっちから出てきたんやから、あっち真っ直ぐ行けばいいやろ!!」

怒られて怖くなった俺は、そこから走った。

正直どこ走ったか覚えてないけど、どれぐらい走ったかわからんぐらい走って、ようやく電気がある道に出られた。

んで、家に帰って親にえらく叱られた!ってだけの話なんだが……

自分でもなんも面白くないし、そもそも昔の話なので記憶が風化してあんまり覚えてない。

山にも今日登って以来、一度も登ってなかったしな。

ただ、少し前に、山に登るのは怖いけど、グーグルアースで探すのはいいんじゃね?と思って検索かけてみたんだ。

これが山の一部の写真な。

よく見なくてもわかるけど、白いのが見えるだろ?

これがなかったらこんな話、垂れ流す気がなかったけど、この白いのがなんなのかわからないし、確認する気もないから。

ただ、世の中には不思議なことが多々あるんだな、って話。

ちなみにこれが拡大画像な。

(了)

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