ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026 オリジナル作品

夜に名前を呼んだだけ《月うさぎ6》 iwa+

更新日:

Sponsord Link

今日は、初恋の人のことを書きます。

たぶん、これがいちばん変かもしれません。

小学五年のとき、好きな人ができました。
同じクラスで、背が高くて、笑うと目が細くなる人でした。

放課後、よく家に来ていました。
ゲームをして、宿題をして、飽きたらベランダに出ました。

その人は植物が好きで、うちの鉢植えをじっと見る癖がありました。
まだ小さい芽を指先でつついて、「増えるといいね」と言いました。

増えるって、何が。
そう聞くと、「そのまま」と笑いました。

あの頃は、世界がやわらかかったです。
声も光も、全部が丸くて、少し触るだけで形が変わるみたいでした。

おばあちゃんも元気で、私たちを見て「仲いいね」と言っていました。
その言い方が、なぜか少し低かったのを、今になって思い出します。

中学生になってから、急に変わりました。

廊下で会っても目をそらされました。
話しかけると「今忙しい」とだけ言われました。

前は毎週来ていたのに、一度も来なくなりました。

理由は分かりません。
私が何かしたのかと思って、何度も思い返しました。
でも、特別なことは何もしていません。

ある日、勇気を出して聞きました。
「なんで避けるの」と。

その人は少し笑って、
「なんか、重いんだよ」と言いました。

重いって、何ですか。
私の声ですか。
目線ですか。
それとも、あのベランダですか。

その日の夜、鉢植えを見ました。
土が少し盛り上がっていました。
湿っているはずもないのに、黒く光っていました。

あの匂いが、ほんの少ししました。
濡れた鉄みたいな、冷たい匂いです。

私は思いました。
自分を大事にしない人は、だいたい何かなくします。

これは呪いじゃないです。
ただ、そういう決まりみたいなものです。

数日後、その人は階段から落ちました。
骨折だけで済みました。

落ちる前、足元で何かがざらっと動いたと言っていました。
「滑った」と笑っていましたけど、笑い方がうまくありませんでした。

そのあと、部活でレギュラーを外されました。
理由は「集中力がないから」。

私、何もしていません。

ただ、夜に名前を呼んだだけです。
ベランダで。
小さな声で。

呼ぶとき、鉢の土が少し沈みます。
呼び終わると、また元に戻ります。

風は、その瞬間だけ止まります。

それだけです。

久しぶりに目が合った日、その人は少しだけ怖い顔をしていました。
まるで、私の後ろに誰かいるみたいに。

振り向きました。
誰もいませんでした。

でも、ガラスに映った影は、私より少し大きかったです。
肩の位置が、ほんの少し高い。

最近、その人はまた少し不幸が続いています。
スマホが壊れたり、テストで赤点を取ったり。

私は心配しています。
でも、同時に少し安心もしています。

世界は、ちゃんと重さを覚えている。

軽く扱ったものは、どこかで重さを返す。

この前、その人が小声で言いました。
「お前、なんか変わったよな」と。

変わっていません。

ただ、少し増えただけです。

ベランダの鉢は、もう芽が出ません。
代わりに、土の下で何かが動きます。

名前を呼ばなくても、ざら、と鳴ります。

最近は、私が呼ばれることもあります。
夜、眠る前に。

低い声で。

でも、私は返事をしません。

返事をしたら、
今度は私が、
軽くなる気がするからです。

何が増えたのかは書きません。

書くと、
はっきりしてしまうので。

そして、はっきりしたものは、
きっと重さを持ってしまうからです。

[出典:241 :月うさぎ ◆x7J8mY2Q:2004/06/17(木) 21:09:53 ID:Bn8vRzKe]

[投稿者:志那羽岩子 ◆PL8v3nQx6A]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2026, オリジナル作品
-,

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.