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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

白い板の下 ncrw+177-0117

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夜の天井を見上げる癖は、幼稚園の頃から続いていた。

ベッドに体を沈めると、視界のすべてを白い平面が占める。無地に見えて、近づけば筆のかすれや塗りムラがある。街灯の光がカーテンの隙間を抜け、天井の角に淡い影を落とす。その影が呼吸に合わせて揺れるのを見るのが好きだった。天井が、薄い皮膚のように生きている気がした。

冬の夜、母が電気を消して部屋を出たあとも、私は眠れずにいた。乾いた空気が鼻を刺し、シーツの中で静電気が弾ける。時計の音が一定の間隔で鳴り続けていたが、ふと、そのリズムが途切れた。

その瞬間、天井の模様がわずかにずれた。

目の錯覚だと思った。そう思おうとした。だが、頭のすぐ上で「キイ」という短い音がした。蛍光灯の影に紛れていたはずの継ぎ目が、線として浮かび上がる。線は、閉じたままではなかった。

私は息を止めた。

線の内側が、かすかに光を帯びた。白の下から、別の質感が滲み出る。カリ、カリ、と何かを削るような音が続き、壁と天井の境目が震えた。部屋が装置の一部になったように感じた。

光は冷たかった。吸い込んだ空気に、鉄の味が混じった。天井の白が裏返り、滑らかな面が現れる。そこには規則正しく並んだ穴のような影があり、ゆっくりと動いていた。低い音が腹の奥に響き、部屋がわずかに沈んだ。

目を閉じることができなかった。

どれほどの時間、見ていたのかわからない。気づいたとき、天井は元の白に戻っていた。線も、音も、光もない。私は朝まで眠れなかった。

翌朝、母に話そうとしたが、声が喉で止まった。言葉にした瞬間、あれが普通の出来事になる気がした。だから何も言わず、いつもより長く天井を見ていた。

小学生になっても、癖は消えなかった。あの夜のことは、夢だったのだと自分に言い聞かせていた。ただ、天井の隅の影が揺れるたび、喉の奥がひゅっと鳴った。目を閉じても、白の裏にあった冷たい輝きが残っていた。

夏の夜、妹が私の部屋に来た。寝苦しくて眠れないと言い、タオルケットを抱えていた。二人で並んで横になると、天井が体温で曇るように見えた。

何気なく、私は言った。

「天井が動いて見えたこと、ある?」

妹はすぐに答えなかった。その沈黙が、夜よりも重かった。

「……お姉ちゃんも?」

それだけで、十分だった。

妹は闇を見たまま、小さく続けた。夜中に目を開けたら、天井が違って見えたこと。音がして、怖くて目を閉じたこと。朝になったら、何もなかったこと。

私たちはその夜、電気を消さなかった。蛍光灯の光が、天井のムラや染みをくっきり浮かび上がらせていた。妹は先に眠り、静かな寝息を立てた。

私は眠れなかった。

耳の奥で、細い音が鳴っていた。一定の間隔で、金属が触れ合うような音。視線が自然と天井へ向く。白い面が、ゆっくりと色を変えていく。光の加減ではなかった。白の下から、別のものが滲んでいた。

そこから先の記憶は、途切れ途切れだ。

継ぎ目が開く音。強い光。視界の端を動く影。目をそらそうとすると、体が沈んだ。息を吸うたび、部屋が遠ざかった。

次に目を開けたとき、朝だった。妹はまだ眠っていた。天井は白く、いつもの染みが中央にあった。

私はその染みを指差した。

「昨日、ここ……」

言い終わる前に、妹がうなずいた。

「うん。でも、今も」

私は見上げた。染みの輪郭が、わずかに動いていた。呼吸に合わせるように、膨らんで、戻る。天井が、こちらを覗いているようだった。

それ以来、夜が苦手になった。電気を消す前に、必ず天井を確かめた。確認しなければ、もっとひどいことが起きる気がした。妹も何も言わなかったが、夜中に目を覚ますと、同じように天井を見ていた。

雷の夜、稲光が部屋を白く染めた。その一瞬、天井の裏を何かが這う影が見えた。線のようなものが、継ぎ目に沿って動いていた。

体が動かなかった。怖いというより、思い出してはいけない感覚が胸に広がった。あの音だった。初めて聞いた、あの作動音。

天井が開いた。

白が滑り、奥が覗く。そこには、こちらの部屋によく似た形があった。逆さまの輪郭。その中で、もう一組の影が横になっていた。

影は、天井を見ていた。

声を出そうとして、出なかった。向こう側の影が、口を動かさずに笑った。声は、頭の内側に直接届いた。

――見てるのは、どっち?

視界が反転し、体が引き上げられた。下で、妹が私を見ていた。泣いて、手を伸ばしていた。その表情が、すぐに遠ざかった。

次に意識が戻ったとき、静かな場所にいた。時間の流れが、ひどく遅い。下を見ると、天井越しに部屋が見えた。妹が眠っている。夜になると、彼女は目を覚まし、白い面を見上げる。

私は声を出せない。ただ、見ている。

やがて、妹の視線がこちらを向く。天井ではなく、その上を。

それが、はっきりわかる。

今では、別の誰かがこの部屋を使うこともある。夜中、ふと目を開け、その人が天井を見上げる瞬間がある。そのたび、私はゆっくりと近づく。

白い板の、すぐ裏まで。

[出典:104 :本当にあった怖い名無し ハンター[Lv.40] (ワッチョイ 634c-zKn+):2025/02/12(水) 22:41:34.42ID:2rvIw34G0]

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