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発信者名:長瀬 rw+13,177

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九州在住の某宗派の現役の僧侶である。

宗派の教義上、いわゆる霊や祟りといったものは原則として想定しない。だから、これから書くことは自分の立場としても非常に扱いに困る出来事だ。

発端は一本の電話だった。
福岡の寺にかかってきた見知らぬ番号からの着信で、内容は墓の移設に伴う読経の依頼だった。骨壺を動かすので来てほしいという。

当宗派では魂抜きや魂入れは行わない。その旨を伝え、丁寧に断った。
だが相手は引き下がらなかった。似たようなことでもいい、とにかく来てほしいという。声は中年男性で、明らかに切迫していた。

翌朝、勤めの最中に再び電話があった。
日時は決まったか、急いで来てほしい、そればかりを繰り返す。時間帯も内容も非常識だったが、半ば泣き声のようになったため、こちらも強く断れなくなった。

最短の日程を伝えると、相手は即座に了承し、迎えに行くと言った。住所や詳しい事情は当日車中で話すという。その時点で嫌な予感ははっきりしていた。

念のため、他宗派の友人から譲られた独鈷杵を持参した。本来、使うものではない。

当日、約束より少し早く迎えに来たのは杉山と名乗る男性とその妻だった。
電話の印象とは違い、二人とも穏やかで常識的だった。車内で事情を尋ねると、墓は家族のものではないと言う。関係のない人間の墓だと。

さらに、地元の寺院や神社にはすべて断られたとも語った。理由は曖昧にされた。

向かった先は佐賀県の海と山に囲まれた地域で、途中までは人家も点在していたが、目的地に近づくにつれ、急に周囲から人の気配が消えた。

到着した家は新築の一軒家だった。
仏壇はなく、庭が異様に広い。敷地の端にブルーシートが敷かれているのが目に入った。

家の中で話を聞いている最中、床が突然叩きつけられたような大きな音を立てた。直後にキッチン奥の窓が外から揺さぶられた。風ではない。

杉山は「これも一つなんです」と言った。
庭に埋められた骨の話が出た。牡蠣殻、小動物、豚の骨。掘るたびに出てきて、役場の人間が来ると消えるという。

庭に出てブルーシートをめくると、確かに大量の骨があった。触れる実体があり、写真も撮れた。だが臭いがしない。

その時、窓枠を両手で掴んで揺らす男の姿が見えた。
灰色の作業服を着ていた。顔だけがどうしても見えない。

名号を唱え、独鈷杵を構えると、男は消えた。
骨は残ったままだった。

供養を提案し、骨をすべて掘り出し、敷地の端の樹の下に改めて埋葬した。その最中、杉山と妻はそれぞれ別の位置に現れた男を見たという。

庭の現象は、それで収まった。

だが問題は終わっていなかった。

杉山は言った。
「お墓みたいなものは、二階にあります」

二階の話を聞いた時点で、正直に言えば帰りたかった。

庭で起きたことだけでも十分すぎるほどだったが、杉山は「本当にお願いしたかったのは二階の件だ」と繰り返した。

二階では、以前寝室として使っていた部屋に「お墓のようなもの」が現れるという。
実体ではなく、空間に浮かぶ。音がし、そこから人のようなものが出てくる。半年近く、二人はその階に上がっていない。

階段を上がる直前、杉山が小さく声を上げた。
「前より、はっきり見えている」

部屋に入った瞬間、私が見たのは墓石ではなかった。
蝶か蛾の蛹に似た、表面に模様のある塊が、宙に浮いていた。

杉山と妻は、同時に「え?」と言った。
二人には墓石にしか見えていなかった。

庭の作業服とTシャツの食い違いと同じだった。
見えている対象は同じなのに、形が一致しない。

試しに携帯で撮影しようとすると、蛹のようなものが震え始めた。
直後に「バン」という衝撃音が部屋に響き、強烈な腐臭が広がった。

名号を唱え続けると、空気が歪むような感覚があり、次の瞬間、蛹は消えた。
代わりに白檀の香りが漂った。

それ以降、家の中で異変は起きていないという。

私は礼を述べ、その日のうちに帰路についた。
帰り道、最寄りの人家の屋根に、異常な数のカラスが群れているのを見たが、近づいた途端、一斉に飛び立った。

帰宅後、疲労でそのまま眠った。

翌朝、勤めを終えて事務所に戻ると、寺の固定電話の留守番電話ランプが点滅していた。
再生すると、三件とも同じ内容だった。

「仏事の件でお伺いしたい。長瀬からの紹介です」

発信者名の表示は「長瀬」。
番号は、数日前に私がかけた番号と完全に一致していた。

折り返し履歴も残っている。日時も番号も一致している。
その日の午後、長瀬が勤めていた会社に電話をかけた。

対応した女性は、淡々と告げた。
「長瀬は三年前に亡くなっています。心不全でした」

番号について尋ねると、
「その番号は二年前から別の方が使っています」
と答えた。

その夜、寺の電話が鳴った。
表示は、また「長瀬」だった。

出られなかった。
翌朝、未応答着信として履歴が残っていた。

発信者名は、変わらず「長瀬」。

それからも、同じ番号から不定期に着信がある。
用件はいつも仏事。紹介者は必ず長瀬。

私は、折り返していない。

(完)

[出典:87: 本当にあった怖い名無し 2016/06/14(火) 15:09:19.46 ID:tjAHjknz0.net]

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