高校2年の夏、俺と友人の川村、大塚、笹原は、ふと思い立ってキャンプに行くことにした。
笹原の親戚が教えてくれた川辺の場所を目指したが、途中で道を間違え、結局違う川原に辿り着いてしまった。それでもそこは、対岸に森が広がり、こちら側は小石が多くて雑草もほとんどない、居心地の良さそうな場所だった。
準備が整った夕方、川村と笹原が戻ってきて、「ちょっと先の対岸に変な祠みたいなのがある」と言う。俺と大塚が見に行くと、確かに対岸に奇妙な石造りの祠が見えた。
普通の祠とは違い、鳥居もなく、四角く三角の屋根ではなく円柱形で屋根も丸い。さらに近づくと、根元には枯れていない花が供えられており、どうやら最近誰かが訪れた跡があるようだった。しかし、それ以上気にすることなく、晩飯の準備に戻った。
夜が深まり、片付けをしていると「てぇぇ…」という不気味な声がどこからか聞こえた。隣の川村に聞くが、何も言っていないという。同じ声が再び響くと、今度は全員がそれを耳にし、大塚が「今の何?」と聞いた直後、笹原が「あそこに誰かいる」と、対岸の祠の辺りを指さした。
そこには、10歳くらいの着物姿の女の子らしき人影が立っており、両手で顔を覆いながら「てぇぇ…」とつぶやいていた。
川村が「気持ち悪いな。親はどこだ?」と言いながらその子に近づき、「こんなところで何してるんだ、親のところに帰った方がいいぞ」と話しかけると、女の子は顔を隠したまま「見たい?見たい?」とケラケラ笑った。イラッときた川村が「ふざけんな、早く帰れよ!」と手を掴んで顔から手を離そうとした瞬間、突然川村は悲鳴を上げて倒れ、痙攣を始めた。
俺たちは慌てて川村をテントに運び込み、その間も女の子は「見たい?見たい?」と笑い続け、外から低く「てぇぇ…」という声が聞こえ続けていた。
俺たちは身動きが取れず、携帯で助けを呼ぼうとしたが、圏外で繋がらない。絶望的な状況に、俺は覚悟を決めて一人で走り、街道まで出て助けを呼ぶことにした。
恐怖を振り切り走り出すが、走った先で再びあの女の子が現れ、「見たい?見たい?」と問いかけながら顔にかかった手を外そうとする。俺は視線を逸らし、ただ闇雲に走り続けた。やっと街道が見えた時、足を何かに掴まれて転倒し、逃げられない恐怖が迫った。
背後から再び「見たい?見たい?」と声がし、死に物狂いで進もうとしたが、頭は眩暈で回り、立ち上がることもままならなかった。そこに通りかかったトラックが止まり、何とか助けを求めて俺は救出された。
俺はそのまま意識を失い、病院で目を覚ましたが、川村も無事に運ばれたと聞いた。あの出来事の真相は結局分からず、俺たち以外の目撃者もいなかった。後日、川村に「何を見たのか」と聞いたが、「思い出せない」という。その後も祠について調べたが、何も分からないままだ。あの日の出来事は、今も俺たちの中で謎のままである。
(了)
[出典:255 1/7 sage New! 2012/05/03(木) 01:44:34.64 ID:HPNJqzKn0]