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雀荘で世界がズレた話 rw+3,477-0205

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仕事が早く終わった日のことだった。

帰り際に友人から連絡が入り、いつもの雀荘に集まることになった。特別な理由はない。打てる時間がある。それだけで十分だった。

牌を握り始めたとき、外はもう暗かった。店内はいつも通りで、古い空調の音と、卓を囲む声が低く混じり合っていた。煙草の匂いと、卓の緑の布の色。見慣れた風景だ。

しばらくして、ふと壁を見つめている自分に気づいた。牌を切る手は止まっていないのに、意識だけが少し離れているような感覚だった。

その瞬間、理由もなく思った。
あれ、夏だっけ。

空気が変わっていた。湿り気を帯びた、重たい匂い。さっきまで感じていなかったはずのものだ。視線を戻すと、卓を囲んでいた友人たちが半袖になっている。誰も上着を着ていない。

違和感はあった。だが、不思議なことに強い拒否感はなかった。
この年になると、季節の移り変わりが早いからな。
そんな言葉が、自然に頭に浮かんだ。

窓際を見ると、蚊取り線香が置いてあった。細い煙が、ゆっくりと立ち上っている。
あれ、春はどこいったんだ。
そう思いながらも、誰にも何も言わず、牌を切り続けた。

違和感がはっきりとした形を持ったのは、会話がきっかけだった。

「今、何月やっけ」

何気なく聞いた。
返事はすぐに返ってきた。

「ボォンガツ」

意味が取れなかった。
「は?」と聞き返した。
友人は同じ調子で、もう一度言った。

「ボォンガツ」

その瞬間、頭の中で「七月か」と納得している自分がいた。理由は分からない。ただ、そうだと理解してしまった。

それ以降、会話がおかしくなった。
言葉は日本語のはずなのに、濁点と詰まった音だけが連なったように聞こえる。意味をなさない音の塊。それでも、相槌を打ち、笑っている自分がいる。

「おい、何て言ってるんだ」

そう言ったつもりだった。
返ってきた言葉は、さらに歪んでいた。
それでも、相手は真顔だった。からかっている様子はない。

周囲を見ると、他の卓でも同じような音が飛び交っている。誰も異常だとは思っていない。景色は完全に夏のままだ。

携帯を確認しようとして、手が止まった。
画面には見たことのない文字が並んでいた。「弗」「蹄」「罅」。意味がつながらない。日付も読めない。

ここで初めて、はっきりとした恐怖を感じた。
理解できないのではない。理解しようとしていない自分がいる。その事実が、ぞっとするほど不気味だった。

決定的だったのは、友人たちの動きだった。

立ち上がった彼らは、歩かなかった。
跳ねるように移動した。床を蹴るたび、体が一瞬浮く。その動きが、あまりに自然で、誰も気にしていないことが、さらに怖かった。

顔を見ると、確かに知っているはずの顔なのに、どこかが違う。目の位置か、口の形か、分からない。ただ「同じではない」と分かってしまった。

これは夢かもしれない。
そう思い、頬を強くつねった。
はっきりと痛みがあった。

そのとき確信した。
ここは、知っている世界じゃない。

雀荘を出ると、空は蛍光色のオレンジだった。自然の色ではない。目を覆いたくなるほど、人工的で、均一な色だった。

「ヤバくないか」

そう言った。
友人は首を傾げた。

「いつもの空じゃん」

言葉は正常に聞こえた。だが、その声も、どこか薄っぺらだった。

記憶が揺らぎ始めた。
本当に冬だったのか。
半袖だったのは、最初からだったんじゃないか。
自分の記憶が間違っているだけじゃないのか。

携帯を握った瞬間、画面が弾けるように割れた。音もなく、ただ崩れた。その瞬間、景色全体が現実味を失った。

次に意識がはっきりしたとき、私は雀荘に座っていた。
卓の上には牌。空調の音。冬の匂い。

誰も、何も言わない。
蚊取り線香はない。友人たちは長袖だ。

安心した。
はずだった。

ただ一つだけ、違和感が残っている。
店内が、妙に暑い。
誰も汗をかいていないのに、自分だけが、夏の空気を吸っている。

牌を切るたび、指先に、あの湿った匂いがまとわりつく。

[出典:255 :本当にあった怖い名無し:2014/03/13(木) 20:05:23.56 ID:ZUzAEyLv0]

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