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残ったもの rw+7,486

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親戚に元刑務官がいる。

酒の席で、仕事の話をほとんどしない人だった。こちらが何を聞いても、曖昧に笑って流す。だが一度だけ、ぽつりと零すように言ったことがある。

刑務官の仕事は監視じゃない。あそこでは人を見続ける。人として扱い続ける。それが一番きつい仕事だ、と。

収監者と話す時間が長かったそうだ。用事がなくても声をかけ、雑談をする。すると不思議なことに、相手の方から自分の話を始める。家族のこと、失敗のこと、罪のこと。語るうちに、相手が何を恐れているのかが見えてくるという。

その中で、忘れられない男が一人いる。

仮にAと呼ぶ。

Aは特別な経歴の人間ではなかった。中堅企業に勤め、結婚し、郊外の分譲マンションで暮らしていた。周囲から見れば、ごく普通の生活だった。

罪状は殺人。

被害者は妻。

犯行の動機は最後まで曖昧だったらしい。喧嘩の末だったとも、突発的だったとも言われているが、A自身はそれを詳しく語らなかった。

語ったのは、殺した後のことだけだった。

遺体をどうすればいいのか分からず、冷蔵庫に入れたという。生鮮食品を入れていたのと同じ場所だ。特別な意味はない。そこしかなかった。

仕事には行き続けた。帰宅後、少しずつ処理を進めた。日常の延長だった。料理をするのと大差ない感覚だったとAは言った。

冷蔵庫を開けるたび、特別な感情はなかったという。ただ、視線を合わせないようにしていた。

ほとんどが片付いた頃、最後に残ったのが頭部だった。

それだけは手を付けられなかった。

理由は分からない。怖かったわけでも、罪悪感でもない。タイミングを逃しただけだと言った。

そのまま数日が過ぎた。

ある夜、夢を見た。

リビングのテーブルに、妻が座っている。うつむいたまま、顔は見えない。手だけが見えていた。テーブルの縁に置かれ、微かに震えている。

最初は寒いのだと思った。だが震えは止まらず、音を立て始めた。爪が、指が、テーブルの周囲に落ちていく。床に転がる音が、やけに現実的だった。

Aは動けなかった。ただ見ていた。

やがて腕が崩れ落ち、音が変わった。骨が硬い面を叩く、乾いた音だった。

目が覚めた時、全身が汗で濡れていた。

喉が渇き、水を飲もうとしてリビングへ行った。冷蔵庫の前で足が止まった。扉が、ほんの少し開いていた。

中を覗いた。

見られている気がした。

それ以上は確認しなかった。扉を閉め、家にあったガムテープで何重にも封をした。その日はそれで終わった。

次の夜も夢を見た。

前夜の続きだった。今度は足が床を蹴っていた。一定のリズムで、強く。音が響くたびに床に染みが広がっていく。

部屋が、少しずつ赤くなっていく。

音が止んだ時、顔が上がる気配がした。

Aはそこで目を覚ました。

朝になっても、夢の続きを思い出せた。思い出せすぎることが気味悪かった。

頭部を処理しなければならないと思った。だが冷蔵庫の前に立つと、何をするつもりだったのか分からなくなった。

ガムテープは、すべて切れていた。

床に、何かが落ちていた。

それが何かを認識する前に、Aは視線を逸らした。見なかったことにした。片付けもせず、部屋を出た。

その週末、小型の冷蔵庫を買った。ワンルーム用の安いものだ。古い冷蔵庫はそのままにして、新しい方だけを使うことにした。

夢は続いた。

毎晩、少しずつ進んだ。動く部位が増え、音が増えた。ある夜、顔が上がった。

声が聞こえた気がしたが、内容は思い出せない。ただ、呼ばれている感じだけが残った。

Aは眠れなくなった。

起きている時間も、冷蔵庫の音が気になった。実際には何も鳴っていない。それでも、何かが中で動いている気がした。

ある朝、床に転がるものを踏んだ。

それが何だったのか、Aは最後まで語らなかった。

その日のうちに、Aは警察へ行った。

自首だった。

叔父は、取り調べの場でAと何度も顔を合わせたという。Aは落ち着いていた。泣きもしなければ、取り乱しもしなかった。

ただ、一度だけ、冷蔵庫の話をした後で、こんなことを言ったそうだ。

自分が怖かったのか、妻が怖かったのか、最後まで分からなかった。

叔父はそれ以上、何も付け加えなかった。

数杯酒を飲んだ後、静かに言った。

「残るもんがあるんだよ。片付けたつもりでもな」

それが、誰のものだったのかは分からない。

(了)

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