短編 山にまつわる怖い話

下がれ!逃げろ!【ゆっくり朗読】5733-0102

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自分の体験じゃないけど思い出したのでまた書きます。

630 名前:逝く雄 ◆jan/9fR2 投稿日:02/02/28 10:54

これは友人が体験(?)した話。

そのとき私も近くに居たんだけど、話を聞くだけで全く関わりなしだった。

まだ学生だったころ、休みの日や講義をサボった日などに、バス釣りばかりしていた時期があった。

近くには、今ではバス釣りのメッカとも呼ばれるような湖もあったが、当時、我々はもっぱら近くの川がメインだった。(意外に知られていないがバスは川でも釣れるのだ)

その時釣りをしていたのはかなり川幅の狭い川で、ちょっと勢いをつければ、簡単に向こう岸にルアーが届いてしまうくらいの川だった。

川とはいえ実績があり人気のあるポイントというものはあって、我々が釣っていた場所も橋がすぐそばにあることもあって、左岸右岸ともにすでに数人が入っていた。(余談だが、左岸右岸というのは上流から見て左を左岸、右を右岸と決まっている。下流から見たら右が左岸、左が右岸となる)

適当に、対岸正面に人がこないように場所を取り、自分のいる側の岸近く、ついで正面の対岸とルアーで狙いながら少しづつ移動していく。

ここからは後で聞いた話になる。

ちょうどロッド交換かなんかで、車に戻っていたため直接は見ていないためだ。

友人は、あちこち釣りながら移動していたため、たまたま対岸の二人組みの釣り人の正面に近づいてしまった。

そのため、またもときた場所に引き返そうかと思いながら、引いてきたルアーを水面から抜きあげた。

そのとき。

対岸の二人組みがこっちに向かって騒ぎ出した。

「うわーっ!!!!」

「おいっ、そこそこそこ!!!」

友人に向かって指を指しながら大声で騒いでいる。

指はこちらの足元を指しているらしい。

友人はとんでもないデカバスでもいて、対岸の連中がそれを教えてくれてるのかと思い、それらしい場所を探そうとした。

自分の足元は、葦や水草で意外と水面が見えないものだ。

すると対岸から

「うわっ、行くな行くな!!」

「下がれ!逃げろ!」

(逃げろ・・・?)

(・・・あーーー、そうか!マムシでもいるのか)と思った友人は、マムシではかなわんと思い、岸辺を離れ、土手の上に上がってきた。

ところが。

対岸の二人組みまでもが大慌てで土手に駆け上がり、こちらに向かって走り出した。

表情が尋常でない。

いったい何なんだ?

合流した友人と私は、こけつまろびつといった態の彼らが、我々の元に合流してくるのを待った。

「あんた!さっきの見た?!」

「化けもんだよ化けもん!!」

二人組みは顔が真っ青だった。しきりに、元いた下流方向を気にしている。

二人の話によると、友人が釣っていた場所近く、葦の茂みの手前(川側)二m位の所に、ボコッと波紋が立ったのだそうだ。(ん?)と思って対岸を見ると、バレーボール程の何か黒いものが水中からヌッと現れ、二人の見てる前でそれはゆっくりと回転し始めたという。

最初は、捨てられて苔などで真っ黒になったボールに、水草が絡んだ物のように見えていたが、回転するにしたがって、それが人の顔を持っていることがあらわになった。

長くボサボサの、髪の毛らしきものがまとわり付くそれは、真っ黒でどろどろぬらぬらした人の頭で、うつろに虚空をさまよう目だけが白かったという。

顔がちょうど岸のほうを向いたとき、すぅーっと、一mほど岸に向かって移動しざま水中に消えたのだそうだ。

その方向に釣り人(友人)がいたため、大声で知らせたものらしい。

大慌てでそれだけ言うと、東京からきたという彼らは、釣りを引き揚げて帰っていった。

無論我々も、あまりに気持ち悪いのですぐに引き揚げた。

我々自身は何一つ怖い思いをしていない、ちょっと気持ちの悪い話を聞かされただけだが、それでもそれ以来、二度とその場所には立ち寄らなくなった。

バスではかなり名の知られた湖沼に注ぐ川での話である。

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